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別れた元カノがうちのメイドになった件  作者: 雨宮桜桃
第3章

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夏の思い出をみんなと「祭り……一緒に行かない?」

◆ 天海浩介 ◆


 七月も半分が過ぎた。夏休みまであと一週間を切っており、夏もウォーミングアップが終わったとばかりに本気を出し始めている。

 返却された期末テストの結果は中間とほぼ変わらずで一目通すとファイルの中へとしまった。


「よーし、お前ら静かにしろ」


 六時間目のホームルームが終わる頃合を見計らい先生が声をあげると、三々五々としていた生徒たちが自分の席に戻っていく。


「期末も終わって浮かれる気持ちもわかるがほどほどにな。特に今日の夏祭りでは我が校の生徒という自覚を持って、楽しむのはいいがハメを外しすぎないように」


 先生が話を終えるとちょうど終業のチャイムが鳴る。

 手短に帰りのホームルームを済ませると話題は必然と今晩の夏祭りに。


「あーまみん! 夏祭り一緒に行かない?」


 こういったイベント事に一番乗り気な幼馴染コンビがやってきた。

 

「夏祭りって言っても地元の神社に屋台が少しと地車(だんじり)が出るだけだろ? 僕は別にいいかな」

「えー! ベビーカステラの屋台も来るのに行かないのか!?」

「行かない」

 

 確かにベビーカステラは美味いと思うが、なぜそれでいけると思った。

 とっておきの誘い文句が通じないとみるや明里さんは不敵な笑みを浮かべ、最終手段に出る。

 

「さやちーが浴衣で来るとしたら」


 まったく、明里さんは僕のことをなんだと思っているのだろうか。せっかく友達が遊びに誘ってくれたんだ。理由もなしに断るなんてそんな不義理なことをするはずがないだろう。


「集合時間と場所は?」


 言うと、明里さんは慣れた手つきでスマホを操作し、僕のスマホに一件のグループへの招待メッセージが届く。


「今日、家庭の事情でまおは来れないらしいから連絡はこっちで」


 グループに入ると『夏祭り』というグループ名の横の数が4になる。


「じゃあまたあとでねー。女子はいろいろ忙しいのじゃ」


 忙しなく廊下を走り去っていく明里さんの背中を見送り、僕も帰りの身支度を始める。

 そういえば水無瀬さんもいつの間にか教室からいなくなっている。地元の小さな祭りだというのに女子というのは大変だなと思いつつ、心の奥で感謝を述べていく。





 帰るとスマホに水無瀬さんからメッセージが届いていた。

 一度浴衣を取りに水無瀬家へと帰ったらしい。

 約束の十八時までまだ一時間以上ある。

 暇を持て余していた僕は、下見がてら一足先に祭りの神社へと向かうことにした。


 夏の空はこの時間でもまだまだ明るい。

 地車が神社に帰ってくる祭りの本番は二十時頃のため、今の時間の主な客は地元の小学生だ。

 射的やくじ引きの屋台でゲーム機を狙って(たむろ)する小学生を眺めながら、自分の成長を噛み締めていると、隣接した公園の方から子供の泣き声が聞こえてくる。


「さっきかき氷買ってあげたでしょ」


 ベビーカステラの屋台の前で地団駄を踏みながら泣きじゃくる小学校低学年ぐらいの弟妹。そしてその妹弟を店の前から引き剥がそうとしている姉らしき人――というか、


「えーと、琴吹さん?」


 確信はなかったが、声をかけるとその人はギギギと音を立てて振り返る。

 

「……なんでここに天海が。約束は十八時からのはず……」

「えっと……暇だったから下見がてら」


 琴吹さんは何かを諦めたように一つ大きくため息をつくと、ベビーカステラ12個入を購入し、近くのベンチへと歩き出す。

 僕もその後ろをついて行く。

 

 ベンチに座るとベビーカステラの入った袋を弟妹に渡し、二人はそれを早速食べ始める。


「弟の(れん)と妹の(らん)。双子で小学二年生」


 簡易に説明を終えるとまた大きくため息をこぼし、嘲笑気味に笑う。


「まさか天海に遭遇するなんてね。油断したわ」


 油断――というのはきっと今の琴吹さんの姿に関係する。

 なぜ僕があの時、確信が持てなかったのか。

 琴吹真央といえば大人びていてクールで、そしていつだって完璧。一分の隙もないというのが学校での彼女のイメージ。

 だけど、今の琴吹さんの恰好は上下中学ジャージに度の強そうなメガネ。そしてクロックス。いわゆるオフの姿というやつだ。


「チビ達が祭りに行きたいってうるさくてね。黙らせるために少しだけのつもりだったから部屋着で来たけど、まさか知り合いに出くわすなんて」


 一人後悔をしている姉の隣でベビーカステラを食べ終えた弟妹がじーっとこちらを見つめてくる。


「お兄さんはお姉ちゃんの彼氏?」


 最近の小学生はませているなと思いつつ、やんわりと否定しておく。


「さ、そろそろ帰るよ。晩御飯の支度もしないといけないし」


 琴吹さんが立ち上がると、弟妹は落胆の声を上げる。


「琴吹さんの家庭の事情って」

(うち)、両親共働きでさ、帰り遅いからチビ達の面倒見ないといけないんだよね」


 琴吹さんはまた今にも泣きだしそうな弟妹の頭をなでると二人の手を引き歩き出す。


「じゃっ、天海はみんなでお祭り楽しみな」


 遠ざかっていく琴吹さんの背中。それは少し寂しそうで、だけどそれを仕方なしと受け入れているような。なんだかなつかしい気持ち。気が付けば僕は彼女の背中を追いかけ、一つの提案を持ちかけていた。





 約束の十八時。そろそろ人も増え始め、どこの屋台の行列を形成している。

 時間きっかりに来たのはいつもの幼馴染コンビ。二人とも浴衣に甚平と実に張りきった服装だ。


「あれ! あまみん普通の服じゃん! 浴衣は?」

「浴衣なんて持ってないよ。祭りなんて毎年じいちゃん家に帰省したときしか行かないし」

「えー楽しみにしてたのにー」


 ぷくぅ、と頬を膨らませ拗ねているのをアピールする明里さん。

 それから少しして慌てた様子の水無瀬さんがコトコトと下駄を鳴らしながらやってきた。


「ごめーん。駅前めっちゃ混んでて抜け出すのに時間かかっちゃった」


 お団子に纏めた髪に白い花の髪飾り。そして露わになるうなじ。水色を基調とした花柄の浴衣は水無瀬さんの透明感のある肌をより引き立てている。


「あまみーん、なんかいうことあるんじゃないのぉ」


 ニヤニヤとしているこの幼馴染コンビは癪だが、こんなに素敵なものを見せてくれた水無瀬さんには確かに感想を言うのが、僕にできる最大のお礼だろう。


「えーと、とてもよく似合ってます……」

「あ、ありがとうございます……」


 なんだこれ、めっちゃ恥ずかしいぞ。

 思わず無言になる僕たち。

 次の言葉を探していると、みんなのスマホが同時に小さく震える。


「まお、もうすぐ着くって」


 スマホを確認すると『夏祭り』のグループにメッセージが一件。琴吹さんから入っている。

 僕はそのメッセージに了解と書かれたスタンプを送り、スマホをポケットにしまった。


 連絡から数分後。待ち合わせの鳥居に現れたのはいつもの琴吹さん。服装は夏らしいシースルーのブラウスにデニム。

 水無瀬さんと明里さんの浴衣姿をベタ褒めし、来年は一緒に浴衣を着ようと約束をしている。


「それでこっちが例の弟くんと妹ちゃん?」

「ほら、二人ともみんなに挨拶しな」


 お姉ちゃんに言われ、礼儀正しく挨拶をする弟の蓮くんと妹の藍ちゃん。


「ありがとね。いきなりだったのに蓮と藍も一緒に」

「全然! まおの弟妹にも会ってみたかったし、それにまおと夏祭り行きたかったからね」

「あかり――」


 琴吹さんは感動のあまり明里さんを自分の胸に埋め抱きしめる。なんか苦しそうに踠いてるけど、きっと女の友情に溺れてるだけだよな。


「よし、みんな行くぞー!」


 祭りの雰囲気に当てられてか、なんだかみんなのテンションが高い気がする。

 先陣を切って歩き出した米田を先頭に、僕たちははぐれぬよう固まって屋台の方へと歩き出した。



 焼きそばにわたあめ、金魚すくいにスマートボール。屋台を一頻(ひとしきり)回った僕たちは休憩がてら、本殿外周の石段に腰を掛け、買い漁ったフードを食べる。

 いつの間にか沈んだ夕日の代わりに、灯った提灯が辺りを温かく照らす。

 どこからか聞こえてくる太鼓と鐘の音は祭りが終わりに近づいていることを感じさせる。

 大勢の人と共になだれ込むように境内に入ってきた地車は、瞬く間に辺りの人の関心を奪った。

 地車を取り囲むように集まった人混みの中に飛び込む幼馴染コンビと琴吹兄弟を座った石段から眺める。

 あれだけ遊んだのに元気すぎるだろ。

 我ながらじじくさいかと思っていると、僕のすぐ隣に水無瀬さんがゆっくりと腰を下ろす。


「騒がしかったけど楽しいお祭りだったね」

「さすがにずっと歩きっぱなしで疲れたけどね」

「私も鼻緒の部分が擦れててちょっと痛いや」

「大丈夫? 絆創膏とか買ってこようか?」

「ううん。巾着に入ってるから大丈夫」


 下駄を脱いで少し赤くなった指の間に絆創膏を貼る水無瀬さん。


「また来たいね」


 下駄を履き直し立ち上がると、水無瀬さんは僕に手を差し出す。


「せっかくだし、みんなと近くで地車見に行こ」

 

 僕は少し考えて水無瀬さんの手を取り立ち上がる。


「毎年、夏休みは田舎のじいちゃん家に里帰りするんだけど――」


 みんなのいる方を向いていた水無瀬さんが振り返る。


「――花火大会があるんだ。一緒に行かない……? 二人で――」


 自分の顔が熱くなっているのを感じる。

 思えば、僕からこういったデートの誘いをしたのは、付き合ってた頃から数えてもこれが初めてな気がする。

 相変わらず当時の自分には辟易としてしまう。

 なかなか返ってこない返事に不安になり、照れ隠しで背けていた視線を水無瀬さんに戻す。

 提灯が目の前にあるからだろうか。あわあわと驚いた表情の水無瀬さんの顔が見たことないほど赤くなっている。

 ふぅ、と一つ小さく息を整えると掴んだままの水無瀬さんの手がぎゅっと強く僕の手を握る。


「――はい」


 思わず真正面から目が合って、気恥ずかしさで逸らしてしまう。


「い、行こっか」


 僕は誤魔化すように地車の方に歩き出す。

 夢の中にいるようなふわふわとした感覚。僕たちは手をつないだままでいることすら忘れていた。

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