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別れた元カノがうちのメイドになった件  作者: 雨宮桜桃
第3章
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第二回ファミレス会議「――みんなの好きなタイプってどんな人?」

◆ 天海浩介 ◆


 体育祭から休みを挟んでの本日。

 クラスの打ち上げやら応援団の打ち上げやらが一段落し、今日はいつの間にか予定されていたイツメン(水無瀬さん達3人と僕と米田)での打ち上げ(2次会)が催されている。


「それではみんな――体育祭お疲れ様ーー」

「「カンパーイ」」


 場所はいつものファミレス。

 いつもは混んでいるこの時間だが今日は比較的空いている。連日の打ち上げの反動だろうか。

 みんなそれぞれドリンクバーとシェアする用の大盛りのポテトを頼んで長居する気満々の様子。


「ていうか、今日もどうして打ち上げを? クラスの打ち上げもしたしもう十分じゃ?」

「あまみん、楽しいことは何度やってもいいんだよ! ほら、パパたちだって忘年会何回もやってるでしょ!」


 それとこれとは少し違う気もするが……。

 まあ、僕にとってはちょっど都合がいいというか。

 というのもこれは今日の昼休みのことである。


 4時間目が終わり、いつものように昼食を食べようとカバンからお弁当を取り出していると、

 

「天海くん今ちょっといいですか?」


 学級委員の中村がいつしかと同じように話しかけてきた。

 僕は心の中で絶対例の件だ、と思いながら助け舟を求める意味で目の前でパックのコーヒーにストローを差している米田を見る。


「ん? ああ、全然いいぞ。行ってこいよ」


 違う。お前に遠慮して行っていいか確認してたわけじゃない。

 こうなってしまったからにはもう腹を括るしかない。僕は中村の誘いに応じ、なぜ知っているのか穴場だという無人の空き教室へと向かった。

 教室に入るとちゃんと人が居ないことを確認し、


「早速本題なんですけど、天海くん例の調査の件忘れてませんよね?」

「も、もちろん。体育祭も終わったしこれから本格的に始めようと思っていたところで――」

「天海くんいいですか? 仕事は報告・連絡・相談の報連相が基本ですよ」

「は、はあ……」


 なぜ僕は怒られているんだろうか。


「今日ちょうど打ち上げの2次会? 的なやつやるらしいからそこで探りを入れてみるよ」

「ほう、楽しそうでいいですね。私も行っていいですか?」

「それは……」

「まあ、行ったところで緊張して喋れなくなってしまうので行かないんですけどね、HAHAHA……はぁ……」


 自分で言って傷つくなよ。

 まずはそういうところを直すことから始めた方がいいと思うぞ。


 と、いうことがあった。


「てかてかあまみんに聞きたいことあるだけど――結局借り物競争のお題ってなんだったの?」


 もう何度目かも忘れた質問。クラスでも聞かれたが、


「秘密……」

「え~、あかり達だけにでも教えてよ~」

「そーだそーだー。天海くん当事者の私にさえ教えてくれないんだよ」


 だって言いたくないのだからしょうがない。


「案外普通に『好きな人』だったりしてね」

「「うーん…………」」


 明里さんは思ったことを口にしただけなんだろう。しかし一応こんな感じではあるが僕と水無瀬さんは別れた元カップル。その話題は本来禁句とされるものでそれを理解している米田と琴吹(他の2人)はクラスメイトが先生に怒られている時のような気まずい顔をしている。

 そんな2人を他所に水瀬さんはそうなの? といった目でチラチラこちらを伺っているが違うもんは違うのだからしょうがない。だけどそれを否定するのはなんだか水無瀬さんが傷つきそうだから言うに言い出せない。

 今僕たちにできるのはただ目の前のポテトが冷めていくのを見届けることだけだ。

 シーン、と、まるで時が止まったかのような沈黙の中、ストローが残り僅かなジュースを吸い上げ切ったズズズ、という音が止まっていた時を再び動かした。


「あかり飲み物入れてくる!」


 相変わらずのマイペースだなぁ、と思っていると、


「みんな悪いな。あいつも別に悪気があるわけじゃないんだ。ただ昔からちょっと空気が読めないというか……。大目に見てやってほしい」


 意外にも米田がフォローを入れてきた。


「私たちはもう長い付き合いだからわかってるよ。大丈夫」


 普段はあんな感じの米田だがやはり幼なじみには思うところがあるのだろうか。

 心做しか明里さんを見つめる目には不安の色がみえる。


「見てみて! オレンジジュースとコーラ混ぜてきた! みんなでなんの話してたの?」

「んー、体育祭楽しかったね~って話」

「ねー、ところでさ、みんなの好きなタイプってどんな人?」


 また唐突だなぁ、と思ったがこれは棚ぼた。琴吹さんのタイプを調査する絶好のチャンスだ。

 だけどみんなはこの話題をスルーする方針のようで(だんま)りを決め込んでいる。

 このままだと次第に話題が変わってしまう。ここは背に腹はかえられない。


「僕は気遣いができて、優しい人……かな」

「うんうん! え、髪はショート派? ロング派?」


 予想通り明里さんがちゅーるをあげた時の猫ぐらい食いついてきた。


「髪の長さはその人に似合ってればなんでも」

「じゃあじゃあ! さやちーに似合うと思う髪型は?」

「ち、ちょっとあかり!?」


 不意に出たで自分の話題に驚いている水無瀬さんに明里さんはファインプレーでしょ、 とでも言いたげに親指を立てている。

 水無瀬さんに似合いそうな髪型か――

 言われてすぐに頭に浮かんだ水無瀬さんの姿――


「ポニーテール……とか?」


 …………。


「天海……」

「あまみんそれはちょっとキモイよ」

「こーすけお前結構むっつりスケベなのな」

「…………///」


 なぜ髪型を答えただけでこんなに言われないといけないのか。

 解せぬ思いを抱えながらもこの話題は早く切り上げた方がいいと僕の第六感が告げている。


「てか、みんなはどうなんだよ。好きなタイプ」


 半ば強引な話題転換かとも思ったが僕の質問をいち早くキャッチしたのはやはり明里さん。


「えーとね、さやちーはとにかくイケメンが好きだよ!」

「ちょっとあかりさん!?」

「だってそうでしょ? いつもドラマの誰々がカッコよかったとか言ってるじゃん」

「それは……そうだけど……」

「樹はおっぱいおっきいお姉さんだもんね」

「おい待て! それどこ情報だよ!」

「樹のママが樹の部屋にはおっぱいの大きい姉ちゃんのポスターがいっぱい貼ってあるって言ってた」

「アニメのキャラのタペストリーが何枚かあるだけだ! クソ、帰ったら母ちゃんに文句言ってやる」


 明里さんによって次々と公開されていくみんなの好きなタイプ――というより秘密。

 そして次はいよいよ、


「まおは…………何が好きなの?」


 どうやら琴吹さんの秘密は知らないらしい。

 一瞬考えて、しかしみんなも暴露されているだと諦めたのか一つ大きくため息をつく。


「あたしは顔ってより男らしさ? てきな。筋肉とか、頼りになるっていうか、そういう人がタイプ……かな?」


 …………。


「なんか言いなよ……」

「えっと……なんて言うか。案外まともっていうか」

「うん、あかりもまおは男より可愛い女の子が好きとか、弟とか言うのかと思ってた」

「あたしをなんだと思ってるの!?」


 でもそうか。男らしくて筋肉がムキムキで頼りになる……。

 頭の中で中村の姿を思い浮かべ僕はそっと手を合わせた。

 

 それからは明里さんが満を持してという風に自分の理想の男性について話していたが、お金持ちやら高身長やらイケメンやら。そりゃそんな人が居たらその人がいいだろ、みたいなことしか言ってなかったので途中からまだギリギリ温かいポテトを食べることに集中することにした。

 今回の打ち上げはみんなのことを知るいい機会だったと思うと同時になんだか自分へ向けられる視線が少し変わったような気がするがまあそれは気の所為だということにしておこう。

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