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別れた元カノがうちのメイドになった件  作者: 雨宮桜桃
第2章
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1番になりたくて②――あなたの1番になりたい

◆ 水無瀬紗弥 ◆


 お昼休憩が終わるといよいよ次は応援団による応援合戦だ。

 私たちの出番は2番目。トップバッターでもトリでもない中途半端な2番手。

 不満がないといったらそれは嘘になるけど厳正なくじの結果だし、それにホントにそこまで不満はない。

 総団長の言っていた私が出来ること。

 私の目的のためにやるべきこと。


「よーし、全員集合!」


 1番手の赤団のパフォーマンスが始まると私たち青団は入場門の前でエンジンを組む。


「例年より短い期間だったけどみんなよくこれまで頑張ってくれた。練習期間中みんな色々あったのは総団長の貝塚からも聞いてる。不甲斐ない団長ですまない。だが、最後にこれだけ言わせてくれ。みんな、最後の応援団――全力を出して楽しもうぜ!」


 団長の言葉でみんなの士気が上がる。

 赤団のパフォーマンスも終盤。

 私は入場門で整列しながら法被、扇子、そして早朝から結った髪の最終確認をする。

 うん、完璧……。

 ただの学校行事。

 ただの体育祭。

 なのに心臓の鼓動が早くなっているのがわかる。


「続きまして、青団の応援合戦です」


 音楽と共に入場すると、グラウンド中の視線がこちらに向けられているのを感じた。

 お昼休憩明けで少し落ち着いていた会場の熱もさっきの赤団のパフォーマンスで休憩前ぐらいまで持ち直している。

 私の定位置はクラスの観客席の反対側で見えないけど天海くん見てくれているかな……。

 いや、きっと見てくれているはず。

 私の気持ちが固まるのと同時に1曲目の音楽が流れ始める。

 まるで主人公にでもなった気分だ。

 いや違う。

 今は私が主人公なんだ。

 たとえ背中越しでも私が1番だって思わせてやる。

 1度目の移動が始まり、次はグループ毎に集まり踊るフォーメーション。

 私の隣で踊る河原ちゃんもいつもより気合いの入った踊りでまるで私を見てと言っているようだ。

 私も負けてられない。

 ダンスは基本グラウンド正面――放送係や先生たちのいるテントに向かって踊る。

 だから正面から見ようと思うとそこから見るしかない。いわば特等席だ。そんな所から見れる生徒なんてそれこそ放送係や特別に席が用意されている総団長ぐらいしかいない。

 最後の移動。私の位置は正面テントの真ん前。団長、副団長のすぐ後ろという一般団員の中で1番いいポジション。

 移動後、音楽が流れるまでのその一瞬。

 緊張の糸が少し緩んだその刹那。

 今まで集中して狭ばっていた視界が広がり、正面テントを映し出す。


「天海くん……」


 一瞬見間違いかと思った。

 だって天海くんは放送係じゃないし。

 それに明里と真央が総団長と天海くんの雰囲気が似てるって言っていたから総団長と見間違えたのかと。

 でも元彼女で――

 今は毎日顔を合わせているメイド――

 そして――

 私の1番大好きな人――

 だから断言出来る。

 あれは天海くんだ。





◆ 天海浩介 ◆


 水無瀬さんの応援団を特等席で見る方法。

 頭の中で色々考えた結果僕が考えた方法は職権乱用だ。

 体育祭実行委員を口実に何とかテントに潜り込んでやろう。

 これまで体実の仕事以上に散々こき使われたんだ。これぐらいのことは許して然るべきだ。

 お昼休憩が終わり、次のプログラム――応援合戦のアナウンスが流れたタイミングを見計らって僕は教職員用テントに向かう。


「先生、グラウンドの白線引く粉が切れたので体育倉庫の鍵ください」

「……今か?」

「今です」


 先生も応援団をみたかったのだろう。しかし今は校舎内生徒立ち入り禁止。

 先生は名残惜しそうにグラウンドを見てから渋々席を立ち上がり職員室へと鍵を取りに行く。

 途中チラチラと応援団のパフォーマンスを見ながら校舎へ歩く先生を見て少し申し訳ない気持ちになった。

 さて、赤団の応援合戦もクライマックスといったところか。

 テントの中とはいえお昼すぎの猛暑は堪える。

 先生の持つハンディーファンや団扇を羨ましく思いながら垂れてきた汗を袖で拭う。


「きみ――」


 テントの奥から呼ばれた気がし顔を向けると、声の主と思われる人が僕を手招きしている。


「立って待ってるの辛いでしょ。ここ座りな」

「あ、ども」


 この人は確か選手宣誓をしていた……。


「そっちの扇風機自分の方に向けていいからね」

「ああ……ありがとうございます」


 …………。

 正直気まずい。

 親戚の集まりであまり知らないおじさんの横に座るぐらい気まずい。

 赤団のパフォーマンスが終わり、次は青団の応援合戦のアナウンスが流れる。


「誰かの応援?」


 グラウンドを眺めながらそう問いかけてくる総団長に僕もグラウンドを眺めながら、


「そんな感じです」


 青団の入場が終わり僕は法被の集団の中から水無瀬さんを探す。

 ――居た。

 水無瀬さんを見つけた瞬間、隣から「なるほど」と呟きが聞こえた気がした。





◆ 水無瀬紗弥 ◆

 私が応援団に入った理由。それを一言でいうなら天海くんだ。

 昨年の体育祭、多くの人が天海浩介という生徒を見つけた。

 間違いなく昨年の体育祭の主役は天海くんだった。

 私は主役になりたいわけじゃない。

 ただ天海くんと対等――いやその言い方は美しくない。

 私は天海くんに追いつきたい――隣にいて恥ずかしくない存在になりたかった。

 そしてまた私を好きになってもらえるように。

 ――私があなたの1番になりたい。


 応援合戦も終盤。

 暑さで汗だくだくだし、メイクもきっと溶けてる。

 きっと醜い姿になっているのだろう。

 だけど――私は天海くんに見てほしい。

 総団長に気付かされた私が私のためにできる精一杯。

 伸ばした指の先まで見逃さないでほしい。

 

 天海くんは私のこと見つけてくれているかな。

 私は天海くんの追いつけたかな。

 天海くんは私を1番だと思ってくれているかな。

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