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別れた元カノがうちのメイドになった件  作者: 雨宮桜桃
第2章
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憂鬱な体実③......止められるのは僕しかいない

◆ 狩屋未都 ◆


 立て看板と応援旗の完成も間近。はっきり言って今の体実は順調そのものだ。


「狩屋さーん! 赤団の立て看板出来ました!」

「ありがと、後で確認に行くから非常階段横に立てといて」


 前の会議の一件以降、少しずつだけどみんなわたしを頼ってくれるようになり、最近はちゃんと委員長をできているんじゃないかと思う。


「うん、完璧! じゃあこれ明日まで乾かすからそのままにしておいて今日はもう帰ってもいいよ。お疲れ様」

「「はーい」」


 「みんなお疲れ様ー」「結構良い出来なんじゃない?」、と互いを労い合う姿を見てわたしの表情もつい緩んでしまう。

 体育祭まであと1週間。この感じだと週明けには完成かな。順調順調♪

 それもこれも天海くんのおかげ。

 また今度体育祭(今回)のお礼って理由つけてご飯誘っちゃおうかな♪

 ルンルルン♪ と思わず鼻歌まで口ずさんじゃったりしてしまう。

 そんな浮かれ気分も覚めるような聞き覚えのある声が私を振り向かせる。

 


「おっ、やってるやってる」

「やっほー、未都ちゃん」


 忘れていた。というより忘れたことにしていた。

 実に半月ぶりに現れたその3人は立て掛けている看板を見るなり鼻を鳴らす。


「ダッセッ……」


 久しぶりに現れ、横柄な態度をとる3年生に1年生たちは完全に萎縮してしまっている。


「お久しぶりです。先輩方、何か用ですか?」


 1年生と3年生の間に入る形で私が前に出ると先輩たちはまるで当たり前かのように、


「俺たち何すればいい?」


 なんて間の抜けたことを言い出した。

 あんたらの仕事なんてねぇーよ!

 って、言ってやりたい気持ちを抑え、


「そうですね。立て看板と応援旗(こっち)はもう完成するんで社会科教室でプログラム作ってるグループの製本を手伝ってもらえますか?」


 なけなしの仕事を振ると先輩たちはお互い顔を見合わせ不服そうにする。


「そんなの陰キャにやらせとけよ」

「俺たちもペンキで絵描きたーい」


 わがままを言い出す先輩らに私は心の中で大きなため息を吐く。


「もうどれも終わりかけなんですよ」


 機嫌を損ねないように穏便に穏便にやり済まそうと私は努力した。けれど次の瞬間――先輩らは目を疑うような行動に出た。

 

「その赤い看板なに? 達磨(だるま)? クソだせぇじゃん。俺たちがカッコよく書き直してやるよ」


 校舎脇に立て掛けていた看板に勢いよくペンキをかけたのだ。

 その瞬間、私の頭は真っ白になった。





◆ 天海浩介 ◆


 なんだか非常階段の方が騒がしい。


「なんか向こうで3年生が暴れてるらしいぜ」


 周りで作業していた人たちもそっちが気になるのか、手を止め人集りを作りに行っている。

 あまりこういうことに群がるのは好まない僕だが今回ばかりは野次馬に混じりに行く。

 と、いうのも少し前からひとつ危惧していたことがあるからだ。

 嫌な予感――というにはあまりにも鮮明に想像できてしまう。もしこの想像どおりのことが起きているなら止められるのは僕しかいない。

 人混みを掻き分け、野次馬の最前線に立つと目の前に広がっていたのは、一言で言うとカオスだった。怒鳴り声をあげる1年男子とその後ろで泣く1年女子。そしてそれを嘲笑うあのサッカー部の3年生達。

 原因はおそらく横にあるペンキ(まみ)れの立て看板だろう。おおよそいきなり現れた3年生がペンキを掛けたとか。

 危惧していた以上に状況は悪いみたいだ。傍にいる狩屋さんもどうしたらいいのか分からず立ち尽くしてしまっている。

 そうこう言っているうちに騒ぎの火はどんどん大きくなっており、1年生も殴り掛かるのをギリギリ理性で保っている状態だ。

 野次馬から抜け出し、


「あの――」


 みんなの視線がこちらに向いたのを感じる。


「誰お前?」

「ん? お前2年の天海だろ」


 なぜ僕のことを知っているのかは謎だがそれなら話は早い。


「先輩方ここは矛を収めてもらえませんかね?」

「俺たちは別に何もしてねーよ。1年(あっち)が一方的にキレてるだけで」

「それはお前たちが立て看板にペンキぶっかけたからだろ!」

「先輩に向かってお前とは口の利き方がなってねーなぁ」


 火に油だったか。これで収まるならそれが一番良かったんだが。


「そういえば先輩方、体実に来られるのは久しぶりですよね」

「ん? ああ、ホントは毎日来たかったんだが部活の引退試合も近いし、ミーティングもあるしで全然来れなかったんだよ」

「そうなんですね。あっ、そうだ! 先輩、ちょっとこれ見てもらっていいですか?」


 僕はスマホを操作し、1枚の写真を先輩たちに突きつける。

 スマホに写るのは近くのショッピングモールのゲームセンターに隣接するフードコートで楽しそうにポテトを摘んでいる先輩達3人の姿。

 案の定、先輩達はその写真を見て眉を(ひそ)めた。


「たまたま体実の会議が早く終わったのでモールに寄ったらこんな写真が撮れちゃいました」


 なんていうのは嘘。

 これはあの日――スローガンと役割決めをした3回目の集会の日の写真だ。

 サッカー部の人たちはミーティングがあるとやらでみんな欠席していたあの日。集会が早く終わり校門までの道を歩いていた僕はグラウンドを見ておかしなことに気づいた。

 ミーティングをしているはずのサッカー部がグラウンドで練習していたのだ。

 不思議に思った僕は練習していた1年生の一人を捕まえ話を聞くと、どうやらミーティングがあったのはホントだったらしい。

 しかしミーティングは大したものではなかったらしく、ものの10分で終わったとか。

 3年の先輩達は体実に顔を出すと練習には参加せず帰ったらしいのだが、もちろん会議に先輩達は来ていない。

 部活には体実を、体実には部活を言い訳に遊びに出掛けたのだと考えた僕はこの辺でうちの生徒が行くところとして近くのファミレスとこのショッピングモールに目星をつけ見事ショッピングモールのフードコートで先輩達を見つけたのだ。


「そんな写真がなんだってんだ! 俺たちはミーティングが早く終わって体実も終わってたから遊びに行っただけで」

「この日だけじゃないですよね? 他の日も遊びに行っているのが目撃されてるんですよ」


 なんていうのも嘘。

 正直、中村や狩屋さんに相談をされたり、体実の作業で他の日までこの人たちを探しに行けるほど僕も暇じゃなかった。

 はったりで出した言葉だったが先輩達には効果があったようで、


「そそそ、そんなこと――別に何が悪いんだよ!」

「別に悪くなかったですよ? 邪魔さえしてこなければ写真(これ)もどこにも出すつもりはありませんでした」

「邪魔なんて――何が言いたい……」

「この写真を部活の顧問に見られたくないならすることは分かりますよね?」


 もしこの写真がサッカー部の顧問に見られたなら。先輩達はもうすぐ引退試合があると言っていた。この人たちが大会に出れるほど上手いのかは知らないが出場機会は間違いなく無くなるだろう。引退試合に出られないというのは3年間部活をしていた人からすれば相当堪えるのではないだろうか。

 脅迫とも取れる質問に先輩達はついに自分たちの非を認め、謝罪をした。

 

 これで一件落着ということで。

 あとのことは近くで一部始終を見ていた委員長の狩屋さんに任せ、僕も自分の作業へと戻った。

 先輩達は謝罪後、立て看板の修復を手伝い、プログラムの製本も積極的に参加したとか。

 何はともあれ、体育祭の準備は予定より少し押すことにはなったが無事終わった。

 そして明日はついに体育祭当日だ――。

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