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別れた元カノがうちのメイドになった件  作者: 雨宮桜桃
第2章
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輝けエール③「水無瀬さんは水無瀬さんのできることを......」

◆ 水無瀬紗弥 ◆


 グループ練習に加え、全体練習が始まって数日。

 昨日からはグラウンドに出ての通し練習も始まり、いよいよ応援団も最終フェーズに入っている。本来なら一致団結し、最後まで頑張ろう、の段階だと思うのだけど、私にはどうしても1つ不安なことがある。それはこのままで本当に体育祭大丈夫なのだろうか、ということだ。

 本番までちょうどあと1週間。なのにみんなのダンスはまだまだ完璧には程遠く、フォーメーションもうろ覚え。最後の曲のダンスなんて昨日グループ練で初めてやったし。

 昨年は夏休み明けの9月が体育祭だったためテストもなく、夏休み中も練習が出来たためもっと完成度も高かった。

 私は焦りと不安からもどかしさを感じていた。





「よーし、今日は土曜日(明日)もあるしラスト1回通して終わるぞ」


 体育祭期間中グラウンドは各団が順番に使っていて今日の青団は2番目だった。

 普段ならグラウンドでの練習が終わったあとも柔道場に戻って練習するんだけど、明日は体育祭本番前、最後の土曜ということで1日練ができ、それに備えて今日の練習は早引きするらしい。

 残りわずかな時間で通しで踊れる貴重な1回。

 気合を入れて踊ったその1回はお世辞にも良いものとは言えなかった。

 ダンスは適当に流して踊り、フォーメーションの移動でももたつき、その失敗をヘラヘラと笑い合う。真剣にやっているこっちが馬鹿らしくなってくる。

 その中でも私の目に付いたのは少し前に河原ちゃんをいじめていたあの2人。


「ねぇ! なんでちゃんとやらないの?」


 練習後2人に詰め寄るとスマホから視線を上げ、わざとらしいため息の後に私を睨みつけてくる。


「は? あーしらちゃんとやってましたけど?」

「ダンスも適当、フォーメーションの移動の時はヘラヘラふざけながら。これのどこがちゃんとやってるっていうの?」

「でも全部踊れてるし、移動だって間に合ってるじゃん。ちゃんとやれって言うならあいつに言えよ」


 指をさす先には河原ちゃんが汗を拭きながら水分補給をしている。


「河原ちゃんは頑張ってる。あんた達とは違う」

「でも踊りも覚えてねーし、あいつは移動も間に合ってねーじゃん」

「それは……」


 確かに河原ちゃんは他の子に比べて要領が悪く、最後の曲のダンスもまだ覚えきれていない様子だった。


「なんか1人で熱くなってるみたいだけど、あーしらは楽しく応援団をやりたいの。いちいち突っかかってこないで」

「そんなんだから天海にフラれたんだよ」


 悔しくて……でも私は何も言い返すことが出来なかった。





 今日は誰かと帰る気になれなくてあかりと真央(2人)には先に帰ってもらった。

 私たちのあとにグラウンド練習をしている赤団の練習を脇のベンチで眺めながらため息をつく。


「楽しく、か……」


 私だって別に楽しくやりたくないわけじゃない。ただ、真剣にやりたいのも本音で……。


「はぁ…………」


 もう何度目かも分からないため息が漏れ出る。

 

「こんにちは」

「ふぇっ!?」


 背後から急に話しかけられ、放心していたのもあり自分でも驚くほどマヌケな声が出てしまった。


「なにか悩み事ですか?」


 この声どこかで聞いたことのあるような……。

 座る私を覗き込む彼は1度見たら忘れなさそうなほど整った顔立ちをしている。けれど私の記憶にはどこを探しても見つからない。


「えっと……すみません。どこかでお会いしましたっけ?」

「ははっ、そりゃ会ってますよ、同じ学校に通ってるんですから」


 真っ直ぐに立ち直った彼はさっきまで流れていた前髪が顔にかかり、私の記憶の中から現れた。


「総団長!?」

「覚えててくれたんですね、水無瀬紗弥さん」

「そ、総団長がなんで私に!? っていうか私の名前……」

「そりゃ覚えてますよ。総団長ですから」


 いやいや、いくら総団長だからって100人近くいる団員の――しかも役職もないただの一団員の名前を覚えているなんて。


「普通は覚えてませんよ」

「そうかな? まあ僕に出来ることなんて大してないから名前ぐらいはね。それで? なにか悩み事ですか?」

「悩み事っていうか……」


 こんな話いきなり友達でもない人からされても迷惑だよね。

 そう思いつつも気がつけば私はこれまでの話を総団長にしていた。





「う~ん、なるほどね」

「やっぱり私のわがままなんですかね……」

「まあ、みんなそれぞれ入団した目的や理由が違うから全員に水無瀬さんと同じモチベーションでやれって言うのはわがままかもね」


 総団長から見てもやっぱりそうなんだ……。

 別に肯定が欲しかったわけじゃない。だけど総団長の言葉は私の心に深く突き刺さった。

 みんながみんな応援団を本気でやっているわけではない。だけど私はやるからにはいいものに仕上げたかった。ただそれだけなのに……。


「…………」

「どうやら水無瀬さんは勘違いしてるみたいだね」

「勘違い……?」

「別に誰も応援団を台無しにしてやろうだとか、わざと失敗してやろうだとか思ってる人はいないってこと」


 そんなことわかって、る……。

 そうだ、わかってたんじゃん。誰も応援団を失敗にする気はない。それなのにみんなはやる気がないって思って、勝手にイライラして。


「私……バカみたい」

「まあ、だからって全体の完成度を水無瀬さん1人が何とかできるわけじゃないから、水無瀬さんは水無瀬さんのできることをして自分の目的を遂げたらいいんじゃないかな?」


 総団長のおかげで私の中で燻っていたものが吹っ切れた。


「ありがとうございます! 私頑張ります」

「うん、頑張りな」


 そう言って優しく微笑む総団長に私はいつの間にか親しみと安心感を感じていたのだった。

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