輝けエール②「......私、運動音痴だから」
◆ 水無瀬紗弥 ◆
グループ練習が始まって1週間。
毎日の練習の成果もあり、ダンスはそれなりに形になってきた。
グループのメンバーもいい子ばかりで2組の河原ちゃんとは練習後、一緒に帰ることも多い。
普段はあまり目立つのが好きじゃないらしいけど、幼馴染の男の子にアピールするために応援団に入ったというなんとも健気で可愛い子なのだ。
1年生ズの2人もいい子で毎日一生懸命練習をしている。
それに香澄先輩ともう1人の3年生車田先輩。私たちのダンスが上手くなったのはこの2人のおかげと言っても過言ではない。
香澄先輩は副団長だからもちろんのこと、車田先輩も中学までダンスを習っていたそうで色々と私たちに教えてくれた。
そんなグループ練習に加えて今日からは全体練習が始まる。
「よし、今日もいい感じだね。じゃあそろそろ時間だから柔道場に行こっか」
確認がてら軽くだけ踊り、私たちは青団のアジトへ向かった。
柔道場に着くともうほとんどのグループが集まっていて、号令がかかるのを各々雑談をして待っている。
「さやちー」
「あかり! 真央!」
2人も先に来ていたようで呼ばれて駆け寄ると私も雑談に混ざった。
私たちの会話はあかりが主導権を握ることが多く、その内容は基本米田くんの愚痴かそのとき思ったことを口にするので私たちはいつも話半分に聞いている。
そのこともあって、ふと近くで話しているグループの会話が耳に入った。
「おっ! 運動音痴の河原じゃーん」
「ちゃんと踊れんのか。体育の時みたいにあーしらの足引っ張るなよ」
何が面白いのか、手を叩いて大爆笑をしているギャル2人。
河原ちゃんも2人が怖いのか何も言い返さず俯いてしまっている。
「なにあれ」
「あー、2組の子達だよ。団長呼んでこよっか?」
「いい、私が行く」
あえて足音をドタドタを鳴らしながら近づくと大笑いしていた2人も私を感知したようで笑うのをやめ、鋭い眼差しを私に向けてくる。
「なに? あーしらになんか用?」
「あんたら、河原ちゃんいじめて何が楽しいわけ?」
「は? 別にいじめてないし」
「そーそ、運動音痴の癖にちゃんと踊れるのかなって心配してあげただけじゃん」
何が心配だよ、バカにして笑ってた癖に。
「河原ちゃんはグループ練でも頑張ってるし、ちゃんと踊れてるよ」
「あっそ、じゃあもういいわ」
2人はめんどくさくなってきたからかぶつくさ言いながらも人混みの中に去って行った。
「河原ちゃん大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
「全くなんなのあいつら」
「いつも私をからかいに来るの……私、運動苦手だから」
「からかうってレベルじゃないって。またなんかされたら私に言って! 絶対助けに行くから」
「うん、ありがと。でも大丈夫……」
そう言う河原ちゃんの顔は力なく笑っていて、私はそれ以上何も言えなかった。




