乙女のプライド「餅は餅屋に」
◆ 天海浩介 ◆
中村とのファミレスの翌日。教科書類をカバンに詰め、帰りの身支度をしていると隣からつんつんと肩をつつかれた。
「天海くん、このあと暇? 実行委員のことで相談があるんだけど……」
そう言われたら同じ実行委員として断ることはできないのだからズルい。
背中に刺さるような視線を受けながら僕は狩屋さんと共に教室を出た。
訪れたのは恒例のファミレス――ではなく、学校から2駅離れた味のあるカフェ。
「ここちょっと前に見つけて来てみたかったんだ」
確かに外観から女子高生が1人で入るには少し勇気が必要そうな見た目をしているが。
戸を開けるとカランカランと吊るされた鈴が僕たちの来店を知らせる。
「いらっしゃいませ」
モダンな店内にポツポツと客が座っており、カウンターではダンディな店主がコーヒーを淹れている。
「2人なんですけど」
「そちらにどうぞ」
2人掛けのテーブル席に案内されるとすぐに大学生ぐらいのウェイターさんが水とメニュー表を持ってきてくれた。
「ここのイチゴパフェが食べたかったんだ。天海くんも食べる?」
「いや、僕はいいかな」
狩屋さんはイチゴパフェとカフェラテを僕はカフェモカを注文し、暫し商品が来るのを待つ。
「天海くんも意外と甘党なんだね。なんかイメージ的にブラックコーヒーとか飲んでるイメージだった」
「僕にどんなイメージを持ってるか分からないけど苦いのは苦手なんだ。朝食のコーヒーだって砂糖を2本入れてる」
「へぇ~いが~い。じゃあさスイーツとかも結構好きだったり?」
なんて他愛もない雑談をしていると注文したコーヒーとパフェが届く。
「これこれ! これが食べたかったの」
狩屋さんは目の前に置かれたパフェを見てキラキラを目を輝かせる。
まるで水無瀬さんみたいだな――なんて……。
「ひとくちいる?」
「いや、大丈夫」
「えー残念。じゃあ全部食べちゃうもんね」
幸せそうにパフェをつついているところ悪いが僕は早速本題に入ることにする。
「それで? 相談って?」
半分そんなものは建前だったのではとも思い始めているが一応名目上はそれが目的だったためそう切り出した。
それに内容について心当たりが全く無いわけではない。
狩屋さんは握っていたスプーンをペーパーに置くとコーヒーを一口啜る。
「実は今日、先生に呼び出されて来週からの実行委員の予定を教えられたんだけど、このままじゃ絶対スケジュール的に無理で……私どうしたらいいか……」
「先生に相談はしたの?」
「してない。できなかった……」
「本格的に手遅れになる前に相談した方がいいと思うけど」
「わかってるけど、委員長を引き受けた以上すぐに投げ出したくないっていうか……」
最初は周囲の評価を気にしてのことかと思ったが、どうやら狩屋未都という人は僕が思っている以上に責任感のある女性らしい。
「そうだなぁ。僕が1つ言えることがあるとすれば前回の議題のスローガンについてだけど、あれは餅は餅屋だ」
「餅屋?」
「そう。正直僕たち体実(体育祭実行委員)のメンバーのほとんどは特別体育祭にやる気があるってわけではなさそうだった」
「うん。それはわたしも思った」
「それはきっと僕たちみたいにじゃんけんで負けた人や仕方なくなった人が多いからだと思う」
「それで? さっきの餅は餅屋ってどういうことなの?」
「だから、スローガンは体育祭のやる気がある人たちに決めてもらえばいい」
「でも前回、案を出してもらおうとしたけど誰も手を挙げてくれなかったよ」
「だからやる気がある人たちのところに行って案を貰ってこればいい」
「……あ! 応援団!」
そう、体実と違って応援団は志願制。いわば体育祭のやる気が満ち溢れている集団と言える。
「応援団は明日も練習してるみたいだから明日いけば来週には間に合うと思うよ」
「うん! ありがとう! 天海くんのおかげでなんとかなりそうかも!」
活路が開けたようで狩屋さんは前回の会議の最後とはまるで違う満面の笑顔で笑った。




