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別れた元カノがうちのメイドになった件  作者: 雨宮桜桃
第2章
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輝けエール① 「――可愛い子は大歓迎だよ」

◆ 水無瀬紗弥 ◆


 これはまずい……。

 よりにもよって天海くんと狩谷さんが実行委員になっちゃうなんて。

 狩谷さんは間違いなく天海くんのことが好きだ。傍から見てもわかるほどの露骨なアプローチ。きっと天海くんも狩谷さんの好意に気づいてるはず。

 これまではそこまで接点がなかったから放って置いたけど、同じ委員会になった今――そうは言ってられなくなった。

 天海くんに限ってその場の勢いで――なんてことはないと思うけど、一応体育祭マジックって言葉もあるし……。

 同じ委員会となったら一緒に居る時間も必然的に増えるわけで……。

 ――ってこんなことうだうだ考えてても何も解決しないっての!


「おーい、さやちー」

「……え?」

「ぼーっとしてどしたの?」

「真央、明里……? あれ? 授業は?」

「もうとっくに放課後だよ? 何回も呼んでるのにさやちーずっとモンモン考え事してるから」

「そんなに時間経ってたんだ……」

「結団式もうすぐ始まるってさ、早く体育館行こっ」


 そういえばそんなこともあったっけ。完全に実行委員のことで頭から抜けてた。

 明里に手を引かれ、体育館に向かうと渡り廊下にさしあった辺りで正面の体育館から漏れ出た歓声が響いてくる。


「なんかすごい盛り上がってるね……」

「そうね……」


 結団式は13時からのはず……。

 スマホを確認するとまだ10分前で時間は間違ってない。

 私たちは恐る恐る体育館の扉を開けるとやたらテンションの高い洋楽と舞台上で踊る上級生、それに飛んだり跳ねたりで盛り上がるオーディエンスとまるでクラブハウスのような光景が広がっていた。


「(13時からで間違ってないよね? なんかもう始まってない?)」

「(間違ってないはずだけど……)」


 扉の前で顔を見合わせていると、


「さやちゃん! まだ始まってないよ!」


 名前を呼ばれ、反射的に振り向くと昨年の応援団の時にお世話になった先輩の姿があった。


香澄(かすみ)先輩! お久しぶりです!」

「あかりちゃんも久しぶり~。2人とも相変わらず可愛いねぇ~。そんでもってそっちの子は新顔だね」

「えっ、あっ――はい!同じクラスの琴吹真央です。よろしくお願いします」

「うんうん。礼儀正しくていいね! そして可愛い! 可愛い子は大歓迎だよ」


 香澄先輩、相変わらずだな。私と明里も昨年同じように口説かれたっけ。

 それから4人でしばらく談笑し、音楽が止まると香澄先輩は去っていった。


 オーディエンスの興奮も冷めやらぬまま、時刻は13時を迎え、結団式の時間になった。

 先生が「お前ら静かにしろ!」、と生徒を静めるがザワザワとした空気はなかなか収まらない。

 今にも先生が怒りだしそうなそんな中、体育館にマイクのハウリングがキーンと響く。

 

「――あー、テステスっ……あ、大丈夫そう」


 舞台中央でマイクを握るその人はまるで1人止まった時間の中を動いていたかの如く、いつの間にかそこにいた。


「あー、どうも――貝塚(かいづか)です……」


 ……えっ? 終わり?

 その素っ頓狂な挨拶に場の空気が冷めていくのが肌身でわかる。なんか舞台袖から他の応援団の人にジェスチャーで指示を受けてるみたいだし、なんなのこの人……。

 1枚の紙を胸ポケットから取り出し、それをガン見しながらその人は言う。

 

「本日はテスト明けでお疲れの中、御足労ありがとうございます。今年度の体育祭応援団総団長を務めることになりました。貝塚隆盛(りゅうせい)です」


 この人が応援団の総団長!?

 失礼かもしれないけどとてもそうは見えない。

 昨年の総団長なんて声の大きさとガタイの良さが取り柄の野球部部長(坊主頭)だよ! けど、この人はその真逆。声量はマイクを通してようやく聞こえる程度で身長は高いけど線が細い。あと、漆黒の髪で目元が隠れていて黒衣みたいになってるし。

 さっきまでとは違う理由でまたザワつき始める会場。けど、そんなことは気にせず総団長は原稿を読み続ける。


「はーい。静かにー」

 

 それに見かねてか場を収集しようと舞台袖から何人かの3年生が出てきたけど収まるまで少し時間がかかった。

 その間、総団長は「お前は相変わらずマイペース過ぎる」と先生に怒られていた。


 まあ、色々あったけど結団式はつつがなく終わり、今は各団に分かれ、団長・副団長との顔合わせが行われている。

 うちの学校の体育祭は1・4組が赤、2・5組が青、3・6組が黄と3色のチームに分かれて競技や応援合戦で競う合うのが伝統で私たちは今年、青団となった。

 

「みんなテスト明けで疲れてると思うから手短に。団長の寺西(てらにし)(かける)だ。よろしく頼む!」


 そのいかにも運動部らしい挨拶と見た目の団長にみんな温かな拍手を送る。


「はーい。副団長の田中(たなか)香澄です! みんなよろしく」


 香澄先輩、副団長だったんだ。

 それから数人の副団長の挨拶があって、それが終わると入団用紙が配られ、すぐに解散となった。





 結団式のあと。私たちはちょっと遅めの昼食を摂るべく学校近くのファミレスへ訪れた。

 各々注文を済ますと話題は必然と結団式のことになる。


「――っていうか、総団長びっくりしたよね!」

「まあ正直、団長の方が総団長らしいというか。あまり体育祭に積極的なタイプには見えなかったよね」

「あたしはなんか天海みを感じたわ」

「それあかりも思った! なんかあまみんみあったよね。雰囲気っていうか」

「天海くんみ?」


 そんなの感じなかったけどなあ。

 それから運ばれてきたご飯を食べ、ちょこっと雑談をして今回は早々と解散した。


 家に帰ると天海くんがリビングで私の帰りを待っていた。どうやらこれから委員会や応援団で各々忙しくなるから家事分担の話がしたかったらしい。

 話し合いの結論からいうと基本は早く帰った方かオフの方がやって、2人共遅くなった日は夕食は出来合いか外食。洗濯や掃除は協力してやることになった。

 ほらね、全然あのマイペースな総団長と似てないでしょ。

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