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別れた元カノがうちのメイドになった件  作者: 雨宮桜桃
第2章
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石の上にも三年。ただし、たまには動いた方がいい時もある

◆ 天海浩介 ◆


 テストは月曜に社会、火曜に数学とコミュ英、水曜に古典、木曜に英語、そして最終日の今日――金曜に化学と現代文の日程で行われた。

 最後のテストが終わった瞬間、クラスからは「終わったー」や「オワタ」という開放感と絶望の声があちこちで湧き上がった。


「はいはい、静かに。この後ホームルームするからみんな廊下には出ず、教室で待ってろー」


 試験官の先生が教室を出ていくとクラス内は自然と雑談タイムが始まる。


「どうよ、手応えは」

「まぁ、できることはやった。これでダメならもう無理だな。そういう君は余裕そうだな、山でも当たったか?」

「まあな」


 余裕の笑みがとても嫌らしい奴だ。

 そして話題はテストから来月半ばに控えた体育祭へと変わった。


「今年から秋じゃなくてこの時期にやるようになるらしいけど、正直助かるよな。最近の9月めっちゃ暑いし」

「6月は6月で蒸し暑いけどな」

「こーすけは今年も走るのか?」

「いや、今年は玉入れとか綱引きみたいな競技でしっぽりとやり過ごすよ」

「おいおい、一生に3回しかない体育祭だぜ? 手を抜いたら一生後悔するかもだぞ」

「青春を謳う気はないんでね」


 ……まあ、彼女が居た僕が言えたことじゃないが。

 でもモチベーションがないのだからしょうがない。今年の体育祭はあまり目立たず陰に潜む予定だ。


 ――ガラガラ

 少しざわついていた教室内が扉の開く音ですっと静かになる。


「はい、おまたせ。ではホームルームしよかー」


 先生は教室に入ってくると持ってきたプリントを1番前の席の生徒に配り始めた。

 1枚は体育祭の種目一覧。それともう1枚は今後の時間割変更について書かれたプリントだ。


「とりあえず今日中に体育祭実行委員を男女1人ずつ決めなあかんねんけど任せていいか……学級代表」


 いきなりそう言われ、戸惑いながらも2人の生徒が立ち上がった。

 1人はメガネをかけた細身の男子。もう1人は大人びたクールなギャル。


「じゃああと任せたぞ。中村(なかむら)、琴吹」


 先生は教室の隅にあるパイプ椅子を広げるとそれにドカっと腰を下ろす。完全に傍観の構えだ。

 とりあえず教壇に上がり、司会と板書に分かれる2人。

 さすが学級代表を任されるだけある。既に自分たちのやるべきことを理解しているようだ。


「えーと……と、いうわけなので実行委員、やりたい人いますか?」


 …………。


 中村はメガネのブリッジを押し上げ、小さく息を吸う。


「困ったなあ……」

「もうじゃんけんでよくない?」


 チョークを片手に面倒くさそうに琴吹さんがそう提案すると、中村は細い腕を組みしばらく考え込む。そして、

 

「う~ん……そうですね。立候補者もいないみたいなので男女に分かれてジャンケンしますか」


 中村がそういうと、「えー、俺部活あるんだけど」や「応援団入る予定なんだけど」と皆、口々に文句を垂らす。だがこの決定は覆されず、既に委員会に入っている者を除き、男女別に教室の左右に分かれさせられた。

 うちのクラスは男子20人女子20人の40人クラスだが男子20人の内、中村含む4人が既に委員会に所属しており、ジャンケンはその他の16人で行うこととなった。さすがに16人で同時にジャンケンをしてもなかなか決まらないということでまず予選で4人ずつに分かれて負け1人を選出。そして負けた4人で決勝戦を行い、その敗者が体育祭実行委員となるルールで既決した。

 正直、僕としても自分じゃなければ誰がなっても良かったのだが、こうなってしまったからには仕方ない。()()をやるか――

 分けられた予選グループごとにジャンケンが周りで勃発している中、僕たちのグループも勝負の時が来た。


「それじゃあいくぞ。ジャンケン――」


 みんなが掛け声と共に繰り出した拳の形を変える。だが、僕は突き出した拳を一切動かさない。そう、これこそ僕のジャンケンの奥義――最初のグーの手を一切動かさないことにより相手に手の動きで手を読ませない。これが僕の考えたジャンケンの奥義だ。

 そしてジャンケンの結果は――僕以外がパーで僕の1人負け。無事ファイナルへとコマを進めた。

 ま、まあ……100回に1回ぐらいこういうこともある。次勝てばいいんだ……だから、だから落ち着け!

 そして集められた予選の敗者たち。みんな、崖っぷちに立たされたようなそんな顔をしている。


「よーし、いくぞ! ジャンケン――」





「じゃあ男子の体育委員は天海な」


 黒板に僕の名前が書き記され、ため息をついた。

 なんで2連続1人負け……。


「よう、ジャンケン最弱王」

「うるせぇ、舌引っこ抜くぞ」

「八つ当たりやめてくださーい」


 もう二度とあの奥義は使わないと心に決めていると女子の方も決まったらしくそれぞれ自分の席に戻っていく。


「よし、女子は狩谷(かりや)だな。2人は早速明日の放課後、他の体育際実行委員との顔合わせあるからよろしくな」


 狩谷さんかぁ……。

 正直、僕は狩谷が苦手だ。狩谷未都(みさと)さん――2年生から同じクラスになった女子のカーストトップに位置するギャルなのだが、何故か朝礼前や休み時間などのスキマ時間に友だちを引き連れて僕に話しかけてくる。(向こうが一方的に話してるだけ)

 これまでまともに会話をしたことがないのに距離が近いためこちらとしては対応に困ってしまう。これからのことを考え、思わず重いため息が出そうになったその時――


「一緒に頑張ろうね! 天海くん!」


 僕の隣の自分の席に腰掛けた狩谷がその特徴的なつり目を細くさせニコッと笑いかけてくる。


「あ、ああ……」


 ――体育祭期間早く終わらないかな……。

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