50位以内を目指して②「女子の言う勉強会っていうのは女子会のことなんだよ」
◆ 水無瀬紗弥 ◆
つい今しがた天海くんは米田くんの家へと勉強を教わりに行った。テストも近いということで最近天海くんは家でも勉強をよくしている。
「さて、私もそろそろ準備して行きますか」
今日はいつもの2人と学校近くのカラオケで勉強会をする約束をしてるのだ。
「おまたせー」
「さやちー! おはよー!」
「さや、おはよう。あたし達も今来たところだよ。じゃあ入ろっか」
私たちは慣れた手際で受付を済ませるとドリンクバーを汲んでカラオケルームへと向かった。
「わーい、カラオケだー!」
「今日はテストの勉強をしに来たんだからね」
「むぅ……あっ! そういえば、ここに来る時にあまみんにあったよ」
「ああ、米田くん家ってあかりん家の向かいだもんね」
「ん? さやちー、あまみんが今日樹ん家に行ってるの知ってたの?」
――あ! しまった!
「う、うん……。たまたま教室で話してるの聞いて……」
「そーだったんだ! でね、樹が寝ててあまみんが困ってたから、あかりが助けてあげたんだ」
「ソーナンダ……」
あ、あっぶなぁ……。普通は元カレが休日どう過ごしてるかなんて一緒に住んででもいない限りわからないよね。もっと気をつけないと……。
「だあああ! やっぱカラオケに来て歌わないとか無理! あかり入れちゃうもんね」
「ちょっと――あかり!」
「まぁまぁ、1曲ぐらいいいんじゃない?」
「もー、真央はあかりに甘いんだから」
「ごめんごめん。さやのこともちゃんと甘やかすから――ほら、あーん」
いつの間にか注文していたパフェを一口掬って差し出してくる真央。
パフェで釣ろったって私はそんな単純じゃないんだから――美味しい……。
まあ、まだ来たばっかだし。勉強は一休みしてからでもいいよね。…………なーんて、カラオケが一休み程度で終わることもなく。それから歌って騒いで食べて。気がついたら――――
「もう3時じゃん!」
気がつけば勉強をせず、かなりの時間ご経っていた。
「はいはい、カラオケは終わり!」
私はあかりからリモコンとマイクを取り上げる。
「ちょっとさやちー返して~」
「ダーメッ! 今から勉強するんだから。カラオケは終わり」
唇を尖らせブーブー言っているあかりを無視して私はカバンから勉強道具を取り出す。
「そーだね。さすがに勉強しようか」
真央も勉強道具を出して、私と2人で黙々と勉強を始める。
「むぅ……2人は成績良いからいいよね! 私は勉強しても意味ないもん!」
「真央はともかく私はそんなに成績良くないよ。いつも平均ちょい下だし」
「ちょい下なだけいいじゃん! あかりなんて毎回赤点地獄だよ!」
「じゃあもっと勉強しないとね」
「勉強やだー! 勉強嫌いー!」
「もう……今日は勉強会をするために集まったんでしょ?」
「さやちー……」
「な、なに? 真剣な顔して……」
「女子の言う勉強会っていうのはね……女子会のことなんだよ」
「ちゃうわ!」
「いてっ!」
あまりに真剣な顔でふざけたことを言うから思わず、チョップしちゃったじゃない。
あかりはおでこを擦りながら涙を浮かべ、机に突っ伏す。そんな強くはしてないんだけどなぁ……。
「カラオケはテストが終わったらまた来よ? そのときはあかりの歌いたい曲いっぱい付き合うから」
「……うん……」
「テストが終わったらって言ったらさ、さや今年も応援団やるの?」
「応援団?」
「体育祭の」
「あー」
そういえば帰りのホームルームで先生がテスト最終日の放課後に結団式があるとかなんとか言ってた気がする。
「んー、まだ考え中かな? バイトのこともあるし」
「えー、またさやちーと一緒に応援団やりたーい! 今年はまおもやろうよ!」
「あたしは……う~ん……考えとく」
応援団か……昨年はなんとなく青春ぽいなって思ってやってみたけど、練習とか結構ガチでハードなんだよね……。メイドと両立するのはちょっと大変かなぁ……。
「噂によると今年は法被じゃなくてチアガールの衣装を着れるらしいよ」
「チアの衣装!?」
それはぜひ着たい!
私――水無瀬紗弥。実は可愛い服には目がない。今のメイドの仕事だって9割自分磨き、1割メイド服目当てで始めたみたいなところもある。
「あかり……その話もっと詳しく教えて」
「おっ! さやちー、やる気出てきた?」
それから話は盛り上がり、あっという間にカラオケの退出時間がきてしまった。
「いやー、今日は楽しかったね」
「うん! また来よっ」
「じゃあまた明後日学校で」
2人とはカラオケの前で解散し、私は一度駅に向かいフリをして大回りで天海くん家へと帰る。我ながら完璧な作戦だわ。
「それにしても応援団楽しみだな。早く結団式の日にならないかな……」
再来週からは応援団の練習にメイドと大忙しだけど頑張らなきゃ…………そういえばなにか忘れているような……
「…………! テスト勉強してないじゃん!」
勉強会なのに結局一切勉強はせず、話ほうけてしまった……これが女子会!?
「……さすがに走ろっ」
私はもう頭しか出ていない夕日に向かい走って帰るのだった。




