変わるものと変わらないもの『ん? ……こいつら……』
◆ 天海浩介 ◆
長いようで短かったゴールデンウィークが終わり、僕たちの日常が戻ってきた。教室に入ると「久しぶり~」や「お前どっか行った?」という会話があちらこちら聞こえてくる。かくいう僕も席に着くなり、
「おっす、ゴールデンウィークなにしてた? こーすけ」
面倒なやつに絡まれた。
「お前は相変わらず朝から鬱陶しいな――米田樹」
「おいおい! 親友に向かってそれはひどくないか?」
「自称親友だ。少なくとも僕はお前を親友だと思ったことは一度もない」
右斜め前の席で「えー」、と唇を尖らせる米田を無視し、カバンから筆箱や教科書を机にしまっていると、
「二人ともおっはよー」
と、前の席の明里さんが元気良く登校してきた。
「おはよう」
「おっす、なぁ聞いてくれよー。こーすけのやつ酷いんだぜ」
「あーそれは樹が悪いわー」
「まだ何も言ってねーし! なあ、ちゃんと聞いてくれよ、敏子~」
「だーかーら、敏子って呼ぶなァ!」
朝からこの幼なじみは中のいいことで。
「みんなおっはー」
「さやちー、まお! おっはー」
イチャつく二人(主に明里さん)に声をかけたのは明里さんの親友――水無瀬紗弥と琴吹真央。三人はおはようのあと謎のハイタッチをして談笑を始めた。
「朝から見せつけてくれますなぁ、あかりさんや」
「べ、別に。樹があまみんにフラれて可哀想だったから相手してあげてただけだし」
「照れちゃってー、あかりかわいい~」
このまるでいとこのお姉ちゃんのようなウザ絡みをしているのが僕の元カノかつ、うちのメイドの水無瀬紗弥だ。
「はいはい。あまり明里をいじめない」
「いじめてないもん、ねぇー?」
「まお~、さやちーがいじめてくる~」
琴吹真央さん。水無瀬さんと明里さんと仲がいいのは知っているが正直、彼女のことはあまりよく知らないんだよなぁ。
そうこうしているうちにSHRの開始を報せるチャイムが教室中に鳴り響き、みんなぞろぞろと自分の席へと戻っていく。そんな中、横を通った水無瀬さんがこちらに小さくピースをしてから後ろの席に着いたことを僕は見逃さなかった。
◆ 米田樹 ◆
ゴールデンウィークが明け、眠たい目を擦って学校に行く日常が戻ってきてはや半日。俺はあることに気づいた。
「こーすけお前、水無瀬さんとより戻した?」
ちょうどミートボールを口に運ぼうとしていた浩介はその手を止め、
「別に喧嘩してたわけじゃないし、何もねーよ」
と、呆れたように否定する。
けれど俺の恋愛センサーが言っている。
こいつら絶対ゴールデンウィークに何かあった――と。
ここはひとつ仕掛けてみるか。
「そーいえば結局ゴールデンウィーク1回も遊んでくれなかったな」
「都合が合わなかったんだから仕方ないだろ」
「親友より女ってわけか……俺悲しいよ……」
「憶測で話を進めるな! そういうお前こそ昨日は明里さんと京都に行ってきたんだろ?」
「俺の母ちゃんと敏子の母ちゃんも一緒にな! まるでデートと勘違いされるような言い方はやめろ!」
ったく、こんな話をしてると……
「ん? あまみん今、あかりのこと呼んだ?」
ほらめんどくさいのが出てきた。
「呼んでねぇーよ。ほら自分のグループに帰った帰った」
しっしっ、と手で追い払う仕草をするとそれが気に入らなかったのかムスッと膨れた敏子がドカッと俺の横に腰を下ろした。
「おい、どういうつもりだ?」
「樹とは喋りませーん。ねぇ聞いてよ、あまみ~ん」
こいつぅ~~~っ。
初めこそ中身のない話をしていた敏子だが次第に話題は俺の愚痴へと変わっていき、
「昨日さー、あかりたち京都で食べ歩きをしてたんだけど樹のやつ最後にきゅうりの一本漬けを食べたいって言い出して買ったんだけどさ、たった3口で『もういらない』って――」
「しょうがねぇだろ。最初は最高に美味いけどそれぐらいになるとしょっからくて飽きてくるんだよ」
「樹の残したきゅうり食べるの大変だったんだから! あかりだってお腹いっぱいなのにさ」
「「どう思う!?」」
審判を託そうと浩介を見やると、思うところがあるのか何かを言いたげな表情をしている。
「んだよ?」
「いや……別に……」
明らかに何かを飲み込んだ浩介を吐かせようとしたその時――昼休み終了5分前の予鈴がなった。そして俺たちの目の前にはまだ全然手を付けられていない昼食が。
「やべぇ! 昼飯終わっちまう!」
「もー、樹のせいだからね!」
それから無我夢中で昼飯を掻き込んだ俺たちはなんとか午後の授業を乗り切ることができた。
◆ 天海浩介 ◆
夕食の買い物を終え、家に帰ると水無瀬さんが洗濯物を畳んでいた。
「おかえり。買い物ありがとね」
「うん……」
この学校から帰ると元カノがメイド服に身を包んで居るという非日常的シチュエーション。だけどその日常を僕は望んだのだ。
「そういえばお昼休み、あかりとなに話してたの?」
「ただの米田の愚痴だよ」
「えー、恋バナなら私も入りたかったー」
僕いま愚痴って言ったよな? まああながち間違ってないが。
「ねぇねぇ、率直に天海くんはあの二人どう思う?」
「……仲のいい幼なじみだと思うよ」
「えー、そうじゃなくてさー」
「まあ2人にその気がないってんなら外野がとやかく言う事じゃないし」
「んー、それはそうだけど……」
水無瀬さんの言いたいことはよく分かる。僕も本当は同じことを思っている。だけどそれは口に出さない。
――僕は水無瀬さんみたいに厄介になる気はさらさらないんでね。
御一読ありがとうございます。
そして皆様大変お待たせいたしました。
1年と半年弱ぶりの更新ということでもう第1章のお話もお忘れだと思います。そんな方はまた1話から読んでいただけるとこれからの第2章をより楽しんでいただけると思うのでぜひよろしくお願いいたします。お待たせした分第2章はとても面白くできたと個人的には思います。
これから月~金の週5日、午前7時に最新話を更新いたします。
元々読んでいたくれていた読者様、この2章の投稿から新しく読み始めた読者様。これからも末永く『別れた元カノがうちのメイドになった件』と雨宮桜桃をよろしくお願いいたします。
X→@AmamiaSakuranbo




