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別れた元カノがうちのメイドになった件  作者: 雨宮桜桃
第1章
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君はもう僕の日常の一部な件(過去)

 これは私がメイドのバイトを始めようと思った最後の決め手だったのだけど、私と天海くんには付き合ってはいたがお互い話すらしない期間――いわゆる倦怠期が存在した。

 元々チョーラブラブカップル! ってわけじゃなかった私たちだけどそれなりに恋人をしているつもりだった。

 よくそのカップルが長続きするかどうかは1度目の倦怠期を乗り越えられるかどうかだという。

 私たちの倦怠期のタイミングはクリスマスを過ぎた頃で、最初の原因は私が天海くんを無視したことから始まった。

 

 ちょっと待って! 話を最後まで聞いて! でもこれは半分は天海くんが悪いと私は主張したい。だってクリスマスだよ! 恋人がいる人ならみんな絶対なにか期待するじゃん?


 そう、私は期待していたのだ。この、カップルにとって一大イベントであるクリスマスはデートをするものだと。だから私は友達とのクリスマスパーティーも断って天海くんにデートに誘われるのを待っていた。けれど、当日になってもデートの誘いはなく、華の女子高生ともあろう私がクリスマスを家族と寂しくチキンを囲み過ごすことになった。


 そして冬休み明け。今年初めて顔を合わせた私たち。


 ――明けましておめでとう。水無瀬さん。今年もよろしく


 もし、ここで私も笑顔で「よろしく」と言えたなら、倦怠期なんて突入することはなかったんだろう。けれど、私がとった行動は完全フル無視。大して仲良くもなかったクラスメイトのもとへ行き、あけおめをした。

 それからだ。私たちが全く話さなくなったのは。


 この出来事から一ヶ月。頭に登った血もすっかり収まり、どう仲直りをしようと頭を悩ませていたとき。絶好のイベントが目前であることに気づいた。そう――バレンタインである。ここで愛のこもったチョコをプレゼントして仲直りをしよう。我ながら名案だと思った。ただ一点に目を瞑れば。

 

 早速材料を買い揃え、試作を始めた。ただチョコを溶かして加工して固めるだけだ、とチョコレートづくりを舐めていた私はすぐに大きな壁にぶつかった。まったく思ったものができない。よく考えてみれば、自分はお弁当すらまともに作れない人間だったことを思い出す。


 それから一週間。バレンタインの前日を迎えたわけだけど、未だ納得のいくチョコは完成していない。


 ――う~ん……


 この未完成なものを渡すか市販のものを渡すか。悩んだ末に私が出した結論は、中途半端なものは天海くんに渡せない。市販のチョコを渡すことにした。


 そしてバレンタイン当日。


 ――天海くん……


 約一カ月ぶりに天海くんに話しかけた私は緊張のあまりなにを話していいかわからず、即刻本題に入った。


 ――これ……バレンタインのチョコ……

 ――……ありがとう。水無瀬さん…………


 そう言ってチョコを受け取った天海くんはどこか寂しそうな顔をしていて――私は後悔した。なぜ、失敗作でも手作りにしなかったのか。そもそも当初の予定では愛のこもったチョコを渡すはずで……。


 そして、天海くんの寂しそうな顔を見て私は決意した。

 料理の勉強をしよう。彼女として嫁度を上げよう。


 そうして私はそのスキルが上がるバイトを求人サイトで探し始めた。

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