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別れた元カノがうちのメイドになった件  作者: 雨宮桜桃
第1章
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水無瀬紗弥も女子高生な件

 ある日の放課後の教室で僕はこんな会話を耳にした。


「さーやち、今からカラオケ行こー!」

「あー、ごめん。今日もバイトあるからパス」

「えー、さやちー働きすぎー。最近付き合い悪いぞー」

「ごめんって。絶対どっかで埋め合わせするからさぁ」

「絶対だよ! ――じゃあバイバイ」

「うん、また明日」


 



 その日の晩。以前はなかった、夕食を食べなからの談笑の最中、僕は水無瀬さんに1つ話を持ち掛けることにした。

 

「それでさ――」

「水無瀬さん、いきなりなんだけど、明日の夕食は僕が作ってもいいかな?」

「え? 別にいいけど……なにか食べたいものでもあるの? リクエストしてくれたら難しいものじゃなかったら作るけど」

「ううん。食べたいものがあるってわけじゃないんでけど、僕もそろそろ高2だし家事の1つでもできるようにならないと、と思って」

「そうゆうことなら――わかった」

「それと、せっかくだし明日はメイドの仕事は休んで遊びに行ってきたら? 有給ってことにしてさ」

「でも……」

「それに僕あんまり料理したことないから、1回自分の力だけで頑張りたいんだ」

「じゃあ……わかった」

「ありがとう」


 きっとこのぐらいしないと真面目で頑張り屋の水無瀬さんは仕事を休もうとしなかっただろう。しかし、彼女もまだ高校2年生、いっぱい友達と遊びたい年頃だ。そんな彼女の時間を作ってあげるのも雇用主の粋な計らいだろう。明日は存分に楽しんでくるといい。

 僕は食べ終わった食器を持って立ち上がり、フフンッと我ながら気持ち悪い笑みを浮かべてシンクへと向かった。





 次の日の放課後。

 

「あかり、買い物行かない?」

「え!? さやちー、今日はバイトないの?」

「うん、今日は休み」

「まじ! いこいこ! ――まおも行くよね?」

「うん」

「それじゃあ、レッツ――ゴー!」


 僕は水無瀬さんたちが教室を揃って出て行くのを見送ってから席を立った。


 一度、家に帰り学校のカバンを置いて僕は夕食の食材を買いに近くのスーパーへと出かけた。

 今日の夕食はカレーにした。ほんとは出来合いのお惣菜で済ませようかとも考えたけど昨日、水無瀬さんにああ言った手前その手は使えない。けど、かといって料理初心者の僕が作れるものなんて限られてるし……。そういった諸々の事情含めた結果、僕でも作れるだろうと――選ばれたのはカレーでした。

 スーパーに入店し、カートとカゴを取ってまずは野菜売り場へ。しかし夕方ということもあってか食料品売り場は夕食の買い物をする主婦でごった返しており、なかなか前に進めない。

 

「にんじん、玉ねぎ、じゃがいも……ぐらいか」

 

 なんとか野菜をカゴに入れ、次は精肉コーナーで肉を選ぶのだが1つ疑問が湧いてきた。


「カレーって牛、豚、鳥、どの肉を使うんだ?」


 お店ではビーフカレーだの、ポークカレーだの書いてあるが家で作るカレーって何カレーなんだ? これまで家で出てきたカレーを思い出すとなんだかコロッとした肉が入っていた気がする……鳥かな?

 鶏肉を1パック、それからカレールーとおつかいで頼まれていた牛乳と砂糖をカゴに入れてレジへと向かう。

 お会計を済ませ、エコバッグに買ったものを入れて、さて帰ろうかと荷物を持ち上げると、


「え……おもっ……」


 一度持ち上げたバッグを台の上に置き、一息つく。

 ……5キロはあるな。

 気合を入れ直し、再度バッグを持ち上げると僕は行きの1.5倍の時間をかけて家に帰った。





 買い物から帰った僕はすでに疲労困憊でソファーに腰を掛けると長く重いため息が出た。


「――世の主婦はこれをほぼ毎日しているのか」


 主婦の大変さと偉大さに気づき、心の中で敬礼をする。さて、のんびりしている暇はない。ソファーから立ち上がり、まずは昨日水無瀬さんに教わった通り衣類の洗濯をする。そして、洗濯機を回している間に掃除機をかけ、洗濯が終わるとそれを干す。

 ここまでの所要時間約1時間。そして現在の時刻は5時30分。そろそろ夕食を作り始めないと間に合わない。急いで準備をし作業に取り掛かる。

 

「いつもの鍋は……これだ」


 作り方はカレールーの箱の裏に書いているのを読んでそれ通りに進める。


「なるほど、肉とか野菜は煮込む前に一度焼くのか」


 カレー作りなんて小学校の林間学校以来だったが、案外順調に進み、完成したカレーはなかなかの出来だった。そしてカレーが完成して30分後。


「ただいまー。ああー楽しかった」


 大量の荷物を持った水無瀬さんが帰ってきた。


「むっ、今日の夜ご飯はカレー?」

「うん」

「やったー、手、洗ってくるね」


 水無瀬さんが手を洗っている間にカレーをよそい、食卓に運ぶ。


「それじゃあ、いっただきまーす」

「いただきます」


 と、言いつつ僕は自分の口にカレーは運ばず、カレーを食べる水無瀬さんをちらりと見る。


「おいしー」

「それはよかった」


 自分が作ったものをおいしい、と言って食べてくれることの喜びを初めて知ったがこれはなかなか悪くない。心なしか確かにいつものカレーよりもおいしい気がしてきた。


「おかわりー」

 

 あっという間にカレーを平らげた水無瀬さんは立ち上がり、キッチンに2杯目のカレーをよそいに行く。そんなにおいしかったなら作ってよかった。スプーンで残り少しのカレーを掬い上げ、口に運ぼうとしたとき、


「ねえ、天海くん」


 キッチンからひょこりと顔を出した水無瀬さんが笑顔で手招きをしてくる。


「……な、なにかな」


 招かれるままキッチンに行くと水無瀬さんがカレーの入った鍋を笑顔で指さす。


「これ、どうするの?」

「ねー、どうするんだろうねー」

「こんなに作ってどうするの?」

「ドウスルンダロウネー」

 

 水無瀬さんは笑顔のまま僕に何度も問いかけてくる――そう、寸胴鍋いっぱいに入ったカレーを指さして。

 ――やったー、いっぱい食べられるね★

 その寸胴鍋いっぱいのカレーを食べ切るため、それから5日間僕たちの夕食はカレーになったという。

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