3-1「担架」
「昨日、道端でお婆さんが転んじゃったのを見たんです。人通りも無くて、私、まだケータイを持ってないのでとりあえず近くのお家まで運ぼうとしたんですけど……持ち上げられなくて。大声で助けを呼んだらなんとか、大人の人が来てくれました」
と、自転車置き場で己己己己が言った。
「そこで反省しました。もしも本当に大人の人も救急車も呼べなくて、1人でなんとかしないといけない状況になった時に備えて……こんなの用意しました」
と、彼女は駐車していたソレをよろよろとターンさせた。
「家にあったアレやコレやを使って、自転車に担架をつけてみました」
……自転車のリアキャリア(荷台)から手作り担架が左右に突き出ているのを見て「……ほお」、看谷は世紀末映画で見た魔改造バイクを思い出した。
「己己己己? いろいろツッコミどころはあるんだけどさ……これ作ったきっかけって、おまえが婆さんを持ち上げられなかったからだよな?」
「ですです」
「……だからさ、けっきょくどうやってこの担架までヒトを持ち上げるんだよ」
己己己己は「ハッ……!」、自転車と共倒れしかけた……。
◯ ◯ ◯ ◯
「帰ったら外しますけど、せっかくですから乗ってみてください」
「嫌に決まってるだろ!」
「なるほど、運転のほうを希望ですか。それがいいですね、看谷さんを乗せてうまくこげる自信が無かったですし」
「ほんと何がどういけると思って作ったんだ。いや、だからどっち側でも乗らないって」
地元民しか知らない静かな小路、いつもの帰り道。看谷が頑として断ると、自転車を押していた己己己己はピタリと止まった。
「……えっと、じゃあここでお別れです。登校の時はテンション上がっててなんとか押してこれましたけど、ちょっともう限界なので1時間くらい休憩してから帰りまふ……ひふ、ひふぅぅ……」
「……いつもの分かれ道までだけだぞ。あと誰か通ったらソッコーやめるからな」
パアア。血の気が無くなっていた己己己己の顔に光が灯った。
……看谷がサドルにまたがったのを確認して、己己己己は荷台担架に横たわった。
「いくぞ」「はい」
漕ぎ出しはとんでもなく重かったが、自転車は走り出した。
「おおお……です」
「乗り心地は?」
「頭の上スレスレに塀とかあって超怖いです」
「おまえが震えるからよけい運転しづらいんだよ……!」
それでもなんとか、2人が帰る分かれ道までゴールインできたのだった。