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最弱保健委員の己己己己さん  作者: 古丹那 リタ
第16話(8月第4週)
51/55

16-3「ウォータースライダー」

 市民プールには定められたお昼休憩がある。

 プールもアクティビティも閉じられるので、混まないうちに売店エリアで昼ごはんへ移るのがセオリーだ。

「ごちそうさま。じゃあ安藤くんとウォータースライダー並ぶから、お先に」

「ホントなんだって戸高ー、小学生向けのCコースが1番エグいスピード出るんだってー」

 休憩終了を告げるラジオ体操の放送が奏でられるなか、要領よくハンバーガーセットを食べ終えた戸高と安藤が出発。

「……………………(指をほぐしている)」

「うん、ほんならこっちも行こか~! アスレチックのてっぺんはウチらのモンや!」

 続いて焼きそばとたこ焼きを平らげた黒瀬と金城も、後ろ手を振りながら遠ざかっていって。

「ひいいい……辛いカライからい辛すぎるッッ! おまえが食券買い間違えたからだからな己己己己ぃぃ……!」

「あうあうカララララ……カ、カレーうどんと見間違えちゃって……」

「ゲキカラうどん!」

 ゲキカラうどん(カレー味)と格闘していた看谷と己己己己は、完全に出遅れた。

 ◯ ◯ ◯ ◯

「あー、まだ辛い……。おまえなあ、1本300円のよくわからないお茶まで買ってくるなよ」

「ゲキカラうどん専用まろやかココナッツミルクティーですよ」

「商品名聞いてるんじゃないんだよ」

 飲み干した紙コップを捨てて、看谷と己己己己はプールサイドをぶらつく。

「安藤は戸高と、黒瀬は金城と、か。なんか意気投合しちゃってさー珍しい組み合わせだよな」

「……? ……看谷さん、ひょっとして聞いてなかったんですか?」

「なにが?」

「あ。やっぱりなんでもないです」

「なんだよ教えろよ、気になるじゃんか」

「今日のこれって、トリプルデートなんですよ」

 何かの技名かと考えた看谷は、数瞬後にやっと理解した。

「……ト? リッッ、はああああ!?」

「戸高さんは安藤さんと、金城さんは黒瀬さんと、私は看谷さんと。たぶん看谷さんが聞いてないだけで、夏休み中にみなさんも距離を縮めてたみたいですよ」

「な、なななななうあうあうあ……!?」

 安藤と黒瀬のアホ面が、頭の中で音を立てて崩壊していく。

 そして再構築された時には、戸高と金城と遊びに行くあの後ろ姿にとって変わっていた。

「って、私が言ったらどうします?」

「あえ? ……はああ、冗談かよ」

 隣の己己己己が一歩距離を詰めてきて、看谷の火照った顔を覗き込んだ。

「安藤も黒瀬も自分からそういうこと言いふらすタイプじゃないし、ちょっと信じちゃったじゃないかよ。……あとオレも巻き込むなよ、べつにおまえといるからってべつにデートじゃないし。べつに」

「ですか。それはそうと看谷さん、今ならまだ空いてるので新しくできたウォータースライダーに行きませんか」

「ああ、ボート乗って滑るほう? いいな」

 ウォータースライダーは2ヶ所あった。

 ランドマークにもなっているタワー型のものは身一つで滑るタイプで、安藤と戸高が遊びにいったほう。

 その一方で今年オープンしたサーキット型のものは、専用のゴムボートに乗って滑るタイプだ。

 流線形の1人乗りゴムボートへ乗り込んだ老若男女が、チューブのコースからゴールプールへ射出されていた。

 ものすごいスピードと水しぶきであり、着水と同時にボートごと転覆してしまっても誰もがはしゃいでいた。

「己己己己ぃ、けっこうスピード出るみたいだけど気絶とかするなよ? おまえのことだから滑る前に腰抜かすかも」

「大丈夫ですよ。ちょっぴり怖いですけど、怖くなくなりますから」

「あー、まあジェットコースターとかも滑りだしたら怖いよりも楽しいもんな」

 長い階段の果てにスタート地点へ着くと、ベルトコンベアで帰ってくるゴムボートたちとともにスタッフが待機していた。

「えっと。2人乗りのボートでお願いします」

 看谷は「うあ!?」、己己己己の注文でスタンバイされた2人乗りゴムボートに腰を抜かしかけた。

「ななななんで!? 1人用のボートだけじゃないのか!?」

「1人で滑られない子のために2人用があるんですよ。でも実は誰でも貸してもらえるんです、たとえばカップル用にとか」

「カッ……きゃ、却下! わざわざソレにしなくても1人ずつ滑ればいいじゃん!」

「よいしょ。万が一の事故に備えて看谷さんに見ててほしいので、私が前に座りますね」

「座るな! 乗るな! 聞け!」

 看谷はあがいたけども。そのぶんだけスタッフの温かい目に焼かれたし、順番待ちの人々にもたぶんニヤつかれていた。

「っぅぅ……う、うああああい!」

「そんなに怖いんですか看谷さん」

「おまえがな!」

 腹をくくって飛び乗った勢いのまま、看谷と己己己己のカップルボートは滑り出した。

「わ、わ。気持ちいいですね、ふふふっ……」

「そりゃよかったなあまったく!」

 色とりどりのチューブが日光を透かしていく。風は、水は、肌の中を吹き抜けていくようでたしかに気持ちいい。

 だけど。己己己己の無防備な背中を間近に見つめてしまうから、ほっぺたの火照りだけがぜんぜん冷めなかった。

  ◯ ◯ ◯ ◯

「オモロかったな~! ちゅうわけでほなまた学校でなぁっ、きゃーー!」

「いよいよ夏の終わりを迎えてテンションおかしくなってるね」

「金城さん、写せる宿題は写していいですよ」

 女子たちが帰りのバスへ乗り込んでいった一方、看谷たち男子組も自転車で出発した。

「んやー、楽しかった楽しかったー。看谷も己己己己ちゃんとうまくいったかー?」

「……『も』? は……な、なに?」

「……………………(満足げに夕陽を見すえている)」

 あの時、「冗談かよ」と笑っていたのは看谷だけだったと今さら気づいても。それ以上は何も聞けなかったのだった。

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