13-2「かき氷」
近所のスーパーの駐車場には、たまに移動販売車が来る。焼き鳥屋、クレープ屋、チュロス屋、メロンパン屋……。
「な、言っただろ? 夏休み中の土曜日はかき氷屋なんだって、焼き鳥屋は金曜」
猛暑日の今日はかき氷屋だった。看谷はしたり顔で振り向きながら、移動販売車を両手で示した。
「はい、私の負けですね。じゃあ水分補給を怠りがちな看谷さんのために、いっしょに食べましょうか」
「……うあ!? なんでおまえとかき氷屋来る話になったんだっけ!?」
「ニュースで脱水症に注意って言ってましたよ、って私がメッセ送ったのが最初でしたっけ」
己己己己はキャスケットのツバをピンと押し上げた。今日はタンクトップにカーゴパンツとアクティブな装いだ。
(ま、まあここまで歩いてきて食べないのは変だしな。話の流れで、ちょっと2人でかき氷食べるだけさ……)
看谷は暑さというか謎の緊張感からの汗を拭った。追い抜いてきた己己己己といっしょに販売車の軒先へ……。
「すみません。はちみつレモンください、トッピングに金時も」
「じゃあオレは、メロンミルク……」
中学生のお小遣いには安くない本格かき氷を購入すると、日陰にあったベンチへ座った。
粉雪のようにキメ細かな白山が、トロトロのシロップと粒立った果肉で彩られていた。
「んっ……うまっ!? シロップが超濃厚。高いだけあるな」
「おいしいですね。あっ……キ~~ン」
看谷は「早い早い」、1口目でこめかみを押さえた己己己己を横目に笑った。
「知ってますか看谷さん。かき氷のシロップって、ぜんぶ同じ味なんですって」
「ええっ? そんなわけないだろ、ちゃんとメロンの味してるぞ」
「原材料はどれも同じで香料だけ違うらしいですよ。つまり香りと色からくる思い込みなのです」
看谷は「へえ?」、まだ半信半疑だった。
「試しに目を閉じて食べてみたらどうでしょう。普通のシロップなら砂糖の味しかしないはずです」
肩をすくめて。看谷は片手にかき氷の乗ったスプーンを持ち、もう片手で鼻をつまむと目を閉じた。
食べる。……練乳に負けないメロン味が広がった。
「なんだよ。やっぱメロン味じゃん」
「そうですか? ちょっとそのままにしててください、もう一口いってみましょう。……はい、どうぞ」
目を開ける前にスプーンが抜き取られたかとおもうと、また握らされた。己己己己がかき氷を掬ったらしい。
「ははは、自分が間違ってたからってそんなムキになるなって」
食べる。……小豆に負けないレモン味が広がった。
「ほらみろレモン味…………レモン味!?」
全てを悟った看谷はギョッと目を見開いた。
「そうですか。やっぱり評判どおり、普通のシロップじゃなくて本物のフルーツを使ってるんですね」
己己己己がニッコリしながら、メロン色が残ったスプーンでかき氷を掬っていた。
「知ってますか看谷さん。ファーストキスはレモンの味、っていうのも思い込みなんですって。ほとんどは」
「は、早く食べろよ頭キーンってなれよ! 溶けるぞ! ちょっと2人でかき氷食べてるだけなんだからな……!」
結果、一気食いした看谷はかつてない頭痛に襲われるのだった。




