13-1「ラジオ体操」
(学校無いのに、学校行くより早く起きてしまった。夏休みっぽくてこれはこれでよし)
早朝。看谷 悠斗は住宅地のそばをブラついていた。
(だけど母さんめ、『それなら朝の散歩でもしてきたらもっと夏休みっぽいですよ』なんて……朝メシ早く作るの眠いだけだろ! 言われたとおり出かけるオレもオレだけどさ!)
なんでもない特別な早起きに、看谷自身浮わついて酔いしれているのは否定できない。
せっかくの散歩だからと普段行かないような道を開拓していっても、けっきょくは見慣れた場所の近くに出てきた。
小学校の校庭で、町内会主導のラジオ体操が催されているのを見つけた。
(ラジオ体操。出席スタンプ集めてもお菓子だけじゃん、って物欲で考えるようになってから行かなくなったなあ)
ラジカセからのピアノ伴奏がなんだか心地いい。スローなのに爽やかで、燦々とした早朝にピッタリだ。
校庭の脇を通過した看谷は、そろそろ戻ろうか、と自分が小学生だった時の下校コースを歩きだした。
……すると、脇道の空き地で珍妙なものを聞いた。
アイリッシュボイスとパイプオルガンの調べがハイテンポに交差する、ラストバトルじみた……ラジオ体操の曲が。
「ハァ、ハァ……負けません。絶対に……この絶望を超えて、私は進みます……ッ」
そして。ラジカセの前で膝を付いてなお立ち上がろうとしている、体操服姿の己己己己 癒子がいた。
「……己己己己。おまえは何と戦ってるんだ」
「あ、看谷さん。おはようございます。強いて言うなら私の中の弱い自分と戦ってます」
看谷は「やかましいわ」、他に誰もいない決戦場で最弱保健委員と向き合った。
「ラジオ体操、だよな? いちおう。向こうの小学校のでやればいいじゃん、誰でも参加OKなんだから」
「はい、夏休み初日から参加してました。……けど、他の人が心配するからラジオ体操第一までクリアしてから来てくださいって……体をねじる運動っっ、あっ、あうっっ、ああああああ」
「己己己己ぃぃぃぃ!? ねじれた!?」
腕を前後へ振り回した己己己己が、ぞうきんみたいにねじれてぶっ倒れた。
「……あう。小学校の時は、みんな温かい目で皆勤賞までくれたのに……中学生になったらもう参加できないなんて」
「ああ、おまえ片小だったっけ……それでこっちの高小のラジオ体操に来たと」
「今日は調子悪いです、まだ半分しか攻略できてません」
「攻略とか言わないからラジオ体操で。マジになりすぎなんだよ、最初に深呼吸から始めろ」
「なにを言ってるんですか看谷さん、深呼吸は最後にやるんですよラジオ体操の」
「力抜けって言ってんの!」
看谷はラストバトルラジオ体操を奏で続けるラジカセを持ち上げ、一時停止させた。
「あと、なんなんだよこのラストバトルみたいな曲は」
「闘志を高めるための『ラジオ体操:魔王リミックス』です。他にも『西部劇リミックス』や『スペースオペラリミックス』、『じょんがらリミックス』など取り揃えてます。看谷さんも参加するなら『ロマンスリミックス』がいいですね」
「なんでオレが参加するってなってんの!?」
「せっかくならいっしょに健康になりましょうよ。たぶん、意味も無いのに早起きしちゃってお散歩してたんですよね?」
「バレてる!」……看谷はラストバトル体操、いや切り替わってロマンス体操から逃げられなかったのだった。




