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最弱保健委員の己己己己さん  作者: 古丹那 リタ
第12話(7月第4週)
39/55

12-3「夏風邪」

 看谷家は、ごく普通の一軒家だ。

 2階建て、庭付き。1階にはリビングとダイニングと父母の寝室、2階には物置部屋と子供部屋がある。

 窓際のベッドを基軸に勉強机とテレビを配置。本棚と衣装ケースは小さく、ゲームグッズのコレクション棚は大きい。

 中学進学にあたって子供っぽさが無くなるように小物を整理したので、こざっぱりした印象となって気に入っている。

「ううう……ゲホッ、ゼ、ッ、ゲホゲホ!」

 そんな小さな城の中で、看谷は寝込んでいた。

「本格的に夏風邪だあ、くそ……。夏休みはじまったばっかりだぞ、くそう……」

 夏風邪である。もちろんゲームもマンガもテレビも自粛状態なのだが、悔しかったのでケータイをいじっていた。

 と、新着メッセージのポップアップがピロンと下りてきた。

 『今日のお昼ごはんは久しぶりにカップ焼きそばです。かやくの袋を取り忘れてたので具は無しです』

 『そんな不毛の大地みたいな焼きそば撮らなくてもいいって』

 己己己己から、青のりだけが乗ったカップ焼きそばの画像が送られてきたのだ。

 『看谷さん、今日は返信早いですね』

 『己己己己だって、今日は急に1日空いちゃってって朝からしょーもない画像送りまくってんじゃん』

 『元気にしてますか?』

 『元気だぞ!』

 今まででいちばん早く即レスしてから、看谷は「……マズイ」と呟いた。

(今のはオレっぽくなかったか……? 夏風邪ひいたなんてあいつに知られたら危険な予感しかしないぞ)

 『どれだけ元気かを100点満点で言ったら?』

 『120点だな。絶好調』

 『それはよかったです』

 看谷は「よし」、己己己己からメッセージの続きが来なくなったのを確認してからうたた寝についた。

  ◯ ◯ ◯ ◯

 ピロン、という通知音の後、30分くらいのうたた寝から目覚めた看谷は困惑した。

 『何点ですか?』

 と。己己己己から、電波塔が遠くにそびえる住宅地の写真が送られてきたからだ。

(あの電波塔……アレだよな?)

 ……窓の向こう、写真と大差無い遠くに電波塔があった。

 『何が? その写真の点数?』

 メッセージ上では感情の起伏はなだらかだったが、実際の看谷は固唾を飲んでいた。

 己己己己から返信は来なかった……すぐには。

 『何点ですか?』

 と。今度は、川と橋と桜の木を添えた住宅地の写真。

(この桜、市役所行くほうの橋だよな? ……こ、ここからそんなに遠くない場所の)

 看谷は夏風邪のせいではない動悸に苛まれた。

 『良い写真だな! どこか行くのか? それとも写真撮りに散歩とか? なあ?』

 己己己己から返信は来なかった……すぐには。

 『何点ですか?』

 と。今度は、これといってランドマークとはいえない田畑が散らばった住宅地の写真。……だからこそ看谷はうろたえた。

(ウ、ウチの近くだぁぁぁぁ……! 絶対オレんち探してやがるっ、具合悪いってバレてるぅ!)

 指先が震える。寝汗、いや冷や汗が吹き出て看谷はベッドから身を起こした。

 『40点! 微妙すぎて赤点ギリギリだに』……だに。

(誤字ったぁぁぁぁ……! マズいマズいマズい勘づかれる、いや待て落ち着け! 点数でオレんちを探そうとしてるなら、この微妙な40点で遠ざかってくはず! あいつが戸惑ってる間に解決策を考え……)

 ピロンと、魔の音が鳴った。

 『看谷』の表札の写真が送られてきた。

「うああああああ……!?」

 トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル、

「ちゃくしんっっっっぬ!?」

 夏風邪の意識朦朧もあって看谷は「あっ」、反射的に通話に出てしまった。

『…………みーつけた。です』

「うああああああああ!?」

 看谷は自分の背後や窓の外を見たが、都市伝説の怪異ではないのだからいるはずもない。

 ピンポーーン、と、ドアの向こうからチャイムが聞こえた。

『はい、看谷でございます』

『こんにちは。私、看谷さんの保健委……クラスメイトの己己己己といいます』

『あら。はじめまして己己己己ちゃん、あの子からいつもお話は聞いていますよ。ふふ』

『わあ……いつもお話を? ふふふ』

(母さん! 無駄に匂わせぶりな言い方すんなよ母さん! いつもってほど話してないし!)

 そしてスマホ越しには、玄関を開けたらしい母と己己己己との会話が聞こえてきた。

『ワケを話すと長いんですけど、とりあえずコレを看谷さんに渡してあげてください。アイスクリームと野菜ジュースです』

『あらあら。ありがとう、お見舞いに? 上がって顔だけでも見せてあげて、夏休みなのに夏風邪だって拗ねてますから』

『いえ、ケータイでやり取りしてたので今日のところはこれで。お大事に、です』

 母の再度の『ありがとう』の後。ケータイの向こうから聞こえたのは、足音、ドアの音、そして自転車の手押し音。

『……看谷さん。元気な人でも120点はそうそう言わないです』

 看谷は「はい……」、ある予感がして窓向こうの階下を覗き込んだ。

 思ったとおり、家の前から看谷を見上げている己己己己がいた。自転車を押しながら。

『家を見られるのは恥ずかしいって言ってたので、看谷さんの心身の健康を尊重してここまでにしておきます。今回は』

 看谷は悟った。己己己己の勝手なお節介にはちがいないのに、『貸し』を作ってしまったのだと。

『そのうち、正式にお呼ばれされるのを待ってますね。看谷さん』

 そのうち、そのうち、……近いうち。看谷は上がってきた微熱にうなされて「ぐぅ」、己己己己を見送るしかないのだった。

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