12-2「部活」
「はあ、帰ろ帰ろ。部活でも登校日でもないのに学校来るとか、すごく損した気分だ」
「そうですか? なんだか特別な気がして楽しいですよ、私は」
夏休み初日だというのに『忘れ物』の漢字ドリルを回収し終えて、職員室に教室の鍵を返して。
看谷と己己己己が歩いていく廊下は見知った早朝の風景よりも静かで。
ただし耳をすませば校内の端々から、夏の日差しといっしょに部活動の喧騒が燦々と注がれていた。
バットの快音、管楽器の深呼吸、体育館の床の摩擦音、武道場を踏みしめる掛け声、などなど。
「看谷さんは、もし部活やるならどこがいいですか?」
「ええ? やらないよ。運動部は朝練とかで絶対キツいし、文化部もコンクールとか目指すのは合いそうにないなって」
一斉オリエンテーションがあったので一通りの見学や体験はしたが、この中学校が部活動強制参加でなくて助かった。
「なるほど。自分だけの特別な時間を大事にしたいのと、好きなことでべつに競い合いたいわけじゃないと」
「おー、それそれそんな感じ。……って、やめろよオレよりもオレに詳しいの」
「じゃあそういうことを抜きにしたら、やってみたい部活はあったりするんです?」
「ん……んー、そう言われると……無い、か? 剣道部、吹奏楽部……いや、どれも『カッコよさそう』って理由だけだな」
「きっかけとしてはそれでも十分だと思いますよ。黒瀬さんと貸しあいっこしてた部活ものマンガですよね」
「ぐ。そういう己己己己ならどこがいいんだよ」
「当然、救急部です」
「え、なにそのおまえにピッタリすぎる部活。そんなのあんの?」
「無いです、私の頭の中にだけある部活です」
「イマジナリー部活!?」
なぜか己己己己はドヤ顔だった。
「学内での怪我や体調不良に備え、出動が無い時はお悩み相談や健康教室を承ります。まずは同好会から始めましょう」
「やらないよ! ただのおまえ主導の保健委員会じゃん!」
「……と、いうのは冗談で。ちゃんとある部活でもやってみたいのはありますよ。当ててみてください」
「なんでそっちだけクイズにしたんだよ」
「ヒントは、運動部じゃない部活です」
「あって無いようなヒントだな」
50m走をやりきった瞬間に頭から倒れ込む虚弱貧弱最弱保健委員なのだから、外堀も外堀のヒントである。
「いいけど、帰宅部なんてのはナシだからな。はは……」
「えっ。あう……正解です」
看谷は「おい!?」、正解そのものよりも己己己己の根性に驚いた。
「それも実在してない部活じゃん!」
「えっっ。……下校のおしゃべりとか寄り道を楽しくする部活、とかじゃないんですか」
「な・い! 部活入ってないヤツの言い訳だからそれ!」
「どおりで……だから入部のしかたがわからなかったんですね。でもそれならよかったよかった、です」
「なにが!?」とおののいた看谷に対して、己己己己はなぜか幸せそうなのだった。




