11-2「お茶」
午後の休み時間。自分の席でケータイをいじっていた看谷は、ふと、隣の席の己己己己に目がいった。
「トクトクトク……」
と、口で効果音を発するくらいには上機嫌そうに。彼女は水筒のコップへオレンジ色の飲み物を注いでいた。
そうして両手で大事そうに持ち上げて、口付けて。コク、コク、コク……「ぷは~」。
「おまえのお茶、毎日違う色してるよな」
「あ。看谷さん、よく気がつきましたね」
「オレンジに、赤色に、黄色に、青色に、紫色に。ホントはジュースだったりして」
「ハーブティーですよ。私、ハーブティー作りが趣味なんです」
予想外の答えに看谷は「へえ」、スマホを置いた。
「っていうと、ティーバッグとかから淹れてるわけ?」
「実はもっと踏み込んでます。ハーブを自分でブレンドしたり、フレーバーになる果物と合わせたり」
「おおお……なんかスゴいな。なんか……カ、カッコイイ」
「カワイイ?」
「カ・ッ・コ・イ・イ! 断じて!」
看谷の脳裏に、ハーブティーの潮流とともにティーポット&カップを舞わせる己己己己のイメージがよぎった。
「ありがとうございます。相手に合わせてハーブの薬効を変えて、発酵の強さを調整して、飲み合わせを考えるのってとっても楽しいですよ。薬剤師の勉強になるかと思ってはじめたんです」
「って薬剤師? なーんだ、けっきょくいつもの保健委員ムーブか」
ハーブティーマスター己己己己のスタイリッシュなイメージが、とたんに白衣の小悪魔風に変貌した。
「むむ。最初はそうだったかもしれないですけど、今は趣味と実益を兼ねて真剣に取り組んでますから」
「はは、ジツエキってなんだよ」
「飲んでみたらわかります。どうぞ、ローズマリーティーのアプリコットフレーバーです」
「アプ……なに?」
「アプリコット。あんずです」
「バラとあんず?」
「看谷さん、ローズマリーはバラじゃなくてシソの仲間です」
と、混乱しているうちにローズマリーティー:アプリコットフレーバーを差し出されて。看谷は一口啜った。
「……おお。甘……酸っぱい……甘酸っぱい、うまい」
「あ、間接キスですね」
「うぶあっっ」
ムセた。噴いた。
「げほっ、ごほっ! せ、せっかくうまいんだからストレートに味わわせてくれよバカ!」
「安心してください。私もこの後、看谷さんと唾液交換しますから」
「!??!?!? ッ、ゴクゴク……ぶはっごちそうさんっ、当然のマナーとして洗って返すからちょっと待ってろ!」
毒を食らわば皿まで。唾液交換したコップを爆弾よろしく両手に乗せ、看谷は手洗い場へダッシュするのだった。




