10-1「ゲーセン」
(安藤も黒瀬も来れないなんてなあ。1PLAY300円の『戦地の絆』、やり込もうと思って軍資金貯めてたのに)
看谷 悠斗たちの地元は片田舎なもので、自転車でも絶妙に遠い町中まで行かないとゲームセンターはなかった。
片道30分かけて1人で遊びにきた看谷は、店内でもひときわ大音響に満ちたコーナーへ足を踏み入れた。
『音ゲー』コーナー。
ファミリー向けに門戸の広い太鼓型音ゲーでさえ、ガチゲーマーによる熾烈な高難易度攻略が繰り広げられていた。
(うわスゲー……1人で2人プレイ用の譜面やってるヤツとか、指出し手袋してるヤツとか、アレって自前のスティック?)
看谷がコインを入れたのは、音楽に合わせて9つの大きなボタンを押す音ゲー。太鼓型と同じくらいポップなシリーズだ。
(オレはあそこまでガチじゃないからなあ。スーパーのゲームコーナーとかでなんとなくやり込んでただけ……だし!)
看谷は任意オプションであるBPM調整やHIDDEN有効化を行ったうえで、最強難易度の1つ下を選択した。
(~~~~~~~~!!)
目を見開き、唇を引き結び、脚を肩幅までしっかり開いて、ボタンたちへ両手を滑らせていった。
◯ ◯ ◯ ◯
「っふぅ~~~~……やっぱ隠し曲は難易度詐欺だぜ。良い汗かいた」
腕しか振り回していないはずなのに、1曲やりきった看谷は汗だくだった。プレイ後はいつもこうである。
「ハンカチよりウェットティッシュが良さそうですね。失礼します」
「おぉ~……ヒンヤリして気持ちいい。サンキューな己己己己…………己己己己ぃ!?」
汗を拭いてくれた彼女、同じクラスの己己己己 癒子が「こんにちは」と傍らに立っていた。
「安藤さんと黒瀬が来られなくてなんだかなあ、の辺りから見てました」
「いつから見て……イヤ先読みするなよ心を読むなよ! いたなら声かけろよイヤ声かけるなよ!」
「どっちなんですか」とウェットティッシュをゴミ箱へ捨てた己己己己は、当然ながら私服である。
看谷がシャツに半ズボンな味気ない装いであるのに対して。こんな薄暗いゲーセンにいるのがもったいなく思えるようなレースのブラウスにデニムスカートで、ちょっと大人びてカジュアルにまとめている。
「……次の曲、選ばなくていいんです?」
「うわヤバっあと15秒!? ええいしかたない、クリア済みのカテゴリーからテキトーに……」
「あ、この曲、私も好きなんです」
「コレ!? って、オレもべつに己己己己に合わせなくていいだろ……!」
「じゃあべつに、合わせてもいいですよね」
ズイッ。臨戦態勢をとろうとした看谷だったが、己己己己が割り込んできたのでスペースを半分こせざるをえなかった。
「ちょ、え!? なにしてんの!?」
「看谷さんはそっちのボタン4つで、私はこっちのボタン4つですね」
「2人プレイ!? いや、今やってんのそのモードじゃないから!」
「あれ、でもボタンは9つあるから1つ余ります、どうしましょう」
「だから余るんだよ1人プレイモードなんだから! ええと、速度下げて設定デフォルトにして難易度ノーマルに……!」
「それで看谷さん、1つ余るボタンは?」「オレがやるから!」
普通に遊んだらフルコンボ余裕なのに、看谷はミスを連発するのだった。




