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最弱保健委員の己己己己さん  作者: 奈雲 ユウ
第1話(5月1週目)
3/55

1-3「用事」

 朝。己己己己は通学の途中で家電量販店のそばを通りががかった。

 まだ開店時間までずいぶんあるのに、入り口前に行列を見つけた。

 というか。行列のいちばん前に、店員へ詰め寄る彼を見つけたというべきか。

「ホントですよね!? 今日の閉店まで有効で、後から来ても結果には影響しないんですよね!? じゃあまた来るからっ、ありがとうございます!」

 小さな紙を通学鞄にしまい込んだ看谷は、己己己己にも気づかずに学校のほうへ走っていった。

「……? 看谷さん?」

 己己己己は彼を追いかけはじめた……、

 が、ゆるりらと方向転換し、行列のほうへ向かった……。

  ◯ ◯ ◯ ◯

「私は用事があるのでここで。看谷さん、バイバイです」

 無表情がちな己己己己は、笑顔の時も口元だけでニッコリ笑う。

「ん、オレも寄るところがあったんだまたな!」

 放課後。正門前で己己己己と分かれた看谷は足早に早口に、町のほうへ向かった。

「たのむぞ……。抽選券もらうためだけにあんなに待ったんだからな……」

 そうして寄り道したのは、家電量販店……。

「………………マジ、かああ。ハズレた……」

 ……出てきた時には、何も買えずに手ぶらだった。

「看谷さん」「うあ!?」

 肩を叩かれて振り向けば、そこに己己己己が立っていた。

「己己己己!? なんでここに、って、用事はどうしたんだよ用事は!?」

「ここに来るのが用事です。看谷さんは何を買いに来たのですか?」

「いや、べつに……なんでもないって。けっきょく買わなかった、っていうか売り切れだったし」

「なるほど。ひょっとしてこれですか?」

 己己己己の後ろ手に隠れていたビニール袋を見せられて「えっ?」、看谷は目をみはった。

 その中にあったのは、モデルガンだった。

 流線形の拳銃に剣が合体した、実在の武器ではないだろうと一目で分かるモノが箱に描かれている。

「『ファイナルレジェンズ』の英雄リヒト仕様ソードガン!? え、えええそれだよっ、当たったのか!? てか、なんで……」

「はい、どうぞ」

 看谷はまたしても「えっ?」と固まってしまった。……バンソウコウでも貼られるような感じに手を取られ、そこにビニール袋を乗せられたのだから。

「……は? なん……オレに?」

「はい。朝、ここで並んでた看谷さんを見て。何の行列なのか店員さんに聞きにいったら、看谷さんの友達だねとか何とかよくわからないうちに抽選券を貰ってて……。よくわからないですけど当たってました。欲しかったのならあげます」

「な……なんかよくわからない敗北感がすごい……うぐぐ……」

 ビニール袋を受け取った看谷ではあったが、己己己己のペースに飲まれていることに気づいてかぶりを振った。

「じゃあ、これ……お金。ちょうど入ってるから……」

「ありがとうございます。何かあった時のためにお母さんがお金持たせてくれててよかったです」

「……でもさ己己己己。オレが言えた立場じゃないけどさ、他人ひとのためにムリしてガンバらなくてもいいんだぞ」

「ムリだなんて。そんな、ぜんぜんないです」

「だって学校でも、自分の周りも見えてないくせにお節介焼きたがるし……主にオレに……ああいやちがう、べつにこんなことが言いたいんじゃなくて……その」

 こんな嫌味や皮肉のようなことが言いたかったわけではない。まだ言っていないこと、言わないといけないことがあるはずだ。

(言えよ。オレが欲しかったコレをくれて、『あ……)

「愛してるから、ですけど」

 「うあ!?」。看谷の目を覗き込む己己己己の顔が、本当に目の前にあった。

「保健委員のお仕事は大好きです」

 「……あ……うあ?」。のけぞった看谷の前で、姿勢を正した己己己己の靴音がトンと響いた。

「あれ? どうかしましたか、看谷さん?」

「お……お、ま、え……」

 後ろ手なんか組んだりして、主張控えめな胸を張って。いつもの無表情に。

「買えなかったストレスで体調を崩しちゃったらたいへんです。クラス中の健康管理はまだできないですけど、今日も看谷さんの元気を守れてよかったです」

「いや……だから、なんでオレ……いいいいややっぱいい! もういい!」

 決まっている。たまたま隣の席にいたのが看谷だったから、なんて答えが返ってくるなら簡単だ。

 でも、そうじゃなかったら?

 そしたら今度こそ、看谷は耐えられそうになかった。

「とにかくっ! あぃ……ありがとう! オレ帰るからなまた明日!」

「明日は日曜日ですよ」

「なんでついてくるんだよ!」

「いつも一緒に帰ってるじゃないですか」

「途中まで道が同じなだけ!」

 大股に歩きだした看谷に、一所懸命に早足に己己己己がついていくのだった。

「…………愛してる、はいきなりすぎちゃいました」

 呟いた己己己己がなんにも気構えずに笑っていたのを、看谷の背中は知るよしもなかった。

「なんか言ったか!?」

「なんにも」

 彼が振り向いた途端に、いつもの楽しそうな無表情に戻ったのだった。

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