9-2「プール」
今日の体育はプールで水泳。本格的に暑くなってきた気候のもと、期末テストから解放された心身にはうってつけだ。
「しょうがないなー。水泳って体力的なコスパ最悪なんだけどー、いっちょ本気出すかー」
「言ってろ。ほら、黒瀬が良い感じのボール確保してきたから自由時間に備えて隠しとこうぜ」
「……………………(バレーボールを小脇に抱えている)」
三々五々、プールサイドへと集まっていくクラスメイトたち。看谷、安藤、黒瀬の3人もテンション高めだ。
「お、ほれほれ健全男子どもー。準備はいいかぃー?」
と、安藤がこそっと指差した先で……、あの女子グループが更衣室から出てきていた。
「暑いです……でも、首の辺りはスースーします」
「うんうん、己己己己さん似合ってるよ三つ編み。あんなひっつめよりいいって」
「ひゃっは~! やっぱ小学校のプールよりゴッツいな~!」
三つ編みな己己己己と、シニョンヘアーに水泳帽を被った戸高と、ポニーテールな金城が。
もちろん言うまでもなく、スクール水着着用である。……看谷は「くっっ」、首がねじ切れる勢いで顔を背けた。
「わーお、戸高ってばチマっこくてキャワイイ。……なーんて本人に言ったらセクハラだから言わないけどー」
「……………………(腕組みとともに仁王立ちしている)」
「学校指定の水着なんだから照れることはない、っておまえの仁王立ちもそれはそれで変だぞ……ほら金城に指差されてる」
まあ黒瀬の言うことにも一理あるので、看谷は洗眼蛇口を眺めるフリからゆっくりと顔の向きを戻した……。
「2人で掃除したかいがありましたね、看谷さん」
「ぶっっ。ふ、2人でじゃなくてみんなでだろ!」
目の前になめらかなおみ足が……いや己己己己が立ち止まっていたので、さっさと整列するようにシッシと手で払った。
やがてクラス全員が集合し、有住先生のホイッスル指揮のもとに準備体操も終わった。
「うちの学校は期末テストが終わってから水泳をはじめるぶん、解放感はあるかもしれないけれど夏休みまでの短期間で詰め込んでいくわよ。では、まずはクロールの泳ぎ方から」
タブレットを使った映像学習や、水泳経験者のクラスメイトによる実演の後、いよいよ入水開始。
プールをいくつかのレーンに区切って並び、25m泳ぐ。泳ぎきったらいったんプールサイドに上がって、戻って、また並んで……泳いで上がって戻って。……何気にキツいローテーションだ。
「先生。ビート板はアリですかぼごぼごぼ」
「己己己己ぃぃぃぃ!? 泳ぐ前に沈んだ!?」
己己己己、プールにちゃぽんと入っただけで頭の先まで水に呑まれた。
けれども看谷と有住先生が飛び込む前に「はぷっ」、ハシゴにしがみつく調子で顔を出した。
「ごめんなさい。私、泳げるんですけど浮けないんです」
「それ泳げるって言う!? てか普通に足付くだろ!」
「あ。ホントですね、またしてもごめんなさい」
「……己己己己さん、もちろんビート板は使っていいけどもっと早く言いなさい。看谷くん、彼女とバディ組んであげて」
「先生!? それ小学校の水泳でやるヤツですよね!?」
なるべく距離を取って並んでいたのに、けっきょく己己己己の真後ろに組み込まれてしまった看谷だった。




