9-1「プール掃除」
一冬越えた汚い水が抜かれていくプールに、体操服姿の生徒たちがデッキブラシとともに待機していた。
「プール掃除まで保健委員の役割なんてたいへんだな」
「そういう看谷さんは、保健委員じゃないのにどうして参加を?」
「……あのテストの成績だけじゃ気持ちよくケータイ買ってやれないから、ボランティア活動でもしてこいって親が」
「それで私の手伝いを? わあ、ありがとうございます」
「じ、自意識過剰だぞ! べつにおまえのためっていうか、おまえからプール掃除の募集聞いてたから! たまたま!」
隣の己己己己から大きく1歩距離を取った看谷は、玄関マットじみたプールサイドの床が裸足に熱いやら痛いやら。
と、水がほとんど抜けたのを見てとった有住先生が、チャンバラや雑談が増えつつあったみんなを手拍子で呼んだ。
「いいわよ。汚れでヌメヌメしてるから、あまり数は無いけど気になる子は長靴使って。転ばないようにまずは壁面を……」
「あっ」「あっ?」
ふんすと一歩踏み込んだ己己己己が、誰かのチャンバラで倒れていた洗剤のボトルを踏んだ。
「ああああああ」「己己己己ぃぃぃぃ!?」
ヌメヌメのプールに降り立つ前からスッ転んだ。
◯ ◯ ◯ ◯
「ホントに大丈夫です。気にしないでください」
ボトルを倒した犯人らしい男子たちの平謝りを受け取って、彼らを作業に戻らせた己己己己は手を振った。
「うわちょっ冷た!? 己己己己っ、ホースホース! 振るな回すなちゃんと生きろ!」
「最後のは違くないです?」
腰をさすりながら、プールの縁に座った己己己己はホースで水をかける担当になっていた。
対して看谷はプールの底に降り立ち、注いでもらった水や洗剤を頼りにひたすら汚れを擦る担当の1人。
「うーわうーわ、まだヌメヌメしてる……足の裏が新感覚すぎる、ああイヤだイヤだ」
「そんなになら、長靴貸してもらったらよかったんじゃないですか?」
「……おまえが先生に診てもらってる間に争奪ジャンケンがあったよ。で、結果こうなってる」
「そうですか。看谷さん、私じゃなくてもジャンケン弱いんですね」
「違うわ! そうじゃなくてだなあっ……あ、い、いや、なんでもない」
看谷は己己己己を見上げたがやめた。長靴を装備した同級生たちが悠々と踏破していくなか、足元の汚れだけを見下ろす。
「んー…………えい」
「うああああ冷たい冷たいわかった言うから!」
ホースの口を押さえた己己己己の高圧洗浄攻撃。
「……勝ってるよ。勝ったんだよ、ジャンケン。でも他のやつに譲ったんだ」
「え? ……看谷さん、私が10連勝しちゃったからジャンケンの勝利だけを求める病気に……」
「違うって! おまえがまた転ばないように確保したのに、ホース役になったから譲ったの! ハッ、うあ……」
……己己己己のマイペースに呑まれてしまったのを、彼女は無表情の口元をニッコリさせながら逃さなかった。
「……それなら自分で使えばよかったのに。優しいですね、看谷さんは」
看谷は「うるっさいなあ……!」、己己己己が注いでくれたキレイな水を追って進むしかないのだった。




