EX1-2「スーパー」
「スーパー寄りますね、悠斗さん」
大学からの帰り道。悠斗と癒子はスーパーに立ち寄った。
「お鍋。また2人で食べたくないですか?」
「うーん。おいしいけど、もう6月だからわざわざ鍋っていうのもなあ」
「……わかりました」
「あと、準備と後片付けが地味に大変。えのきとか散らばるし机がダシでボタボタになるし」
「……わかりました」
悠斗は「ん?」、まったく同じ調子で繰り返した癒子に首を傾げた。
その違和感は、買い物カートに入れられたモノによって形を成した。
「よっこいしょ。……ふう」
一升瓶の、酒だ。
「!? ちょ、癒子……? さ、酒っ?」
「はい。今日は奮発しちゃいます」
買い物カートを押すのは悠斗で、先導するのは癒子で。それはいつものことなのに、悠斗は固唾を呑んだ。
「なんで? オレたちまだ飲めないじゃん、19なんだから」
「そうですね? でも、大丈夫ですよ? べつにいいんです」
「いいわけあるか! ……ハッ、もしかしてオレが鍋を渋ったせい? やめろってっ、急性なんとかになるぞ!?」
「急性アルコール中毒ですか? まさか、イッキ飲みするわけでもないのに」
「ちょっとずつでもダメ! とにかく鍋の準備も後片付けもオレがやるから、ヤケ酒なんかよせってえ!」
……と。調味料コーナーでクコの実のパウチを取っていた癒子は、そのポーズのまま悠斗を見つめた。
無表情がちな彼女なので確実ではないが……少なくとも不機嫌そうな顔には見えなかった。
「悠斗さん。これ、なんていうお酒か知ってますか?」
「え? いや知らないけど、どんな酒でもダメだろ」
「紹興酒っていいます。飲用としてはもちろんですけど、料理酒として使うと健康に良いんですよ」
悠斗は「ショウコウシュ……?」、癒子が回した一升瓶のラベルにその漢字3文字を見た。
「薬膳鍋にしようと思って。それなら6月にわざわざお鍋にする意味になるかなって」
そして彼女は、持ったままだったクコの実のパウチもカートへ入れた。
「あとは生姜とか、花椒とか、なつめも。そうだ、パクチーなんかどうでしょう」
「……ごほん。オレ、パクチー苦手なんだ……」
「ですか。じゃあ代わりに春菊にしましょう」
「それもあんまり好きじゃないんだけどな」
「ところで悠斗さん、本当に私が拗ねてお酒飲むって思ったんですか?」
「蒸し返すなよ流そうとしてんだからあ!」
「それはズルいですよ、悠斗さんから言い出したんですから。じゃあお鍋の準備と後片付けはお願いしますね」
悠斗が「ぐう」の音しか出せなかったのに対して、癒子は鼻歌なんて奏でながらやたらとご満悦そうだった。




