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最弱保健委員の己己己己さん  作者: 古丹那 リタ
第8話(6月4週目)
24/55

8-3「テスト返却」

「せーの」「せーのっ」「……………………(身構えている)」

 看谷、安藤、黒瀬の男子3人は最後の答案用紙をひっくり返した。

「ぐわ!?」「うふふー、看谷の負けー」「……………………(ダブルガッツポーズを突き上げている)」

 返却されたばかりの数学のテスト。看谷64点、安藤66点、黒瀬78点の結果に一喜一憂した。

 休み時間の教室内では、どこもかしこも似たような点数勝負や見せ合いが繰り広げられていた。

「理数系苦手なボクにも負けちゃダメだってー看谷ぃ」

「僅差だろ僅差。だいたいだなあオレはべつにおまえらに勝ちたいわけじゃないんだ、親に認めてもらえるだけの点数取ってケータイ買ってもらえたらそれでいいんだよ。わ、わはは……!」

「……………………(各答案の点数を指で繋げている)」

「え? そ、総合順位は合計点数でって、いいよ今さら数えんのめんどいし! じゃあオレ自分の席で見直しするから!」

 安藤の「逃げたなー」の声を背中に、看谷は自分の席へ戻った。

 すると。少し離れた戸高の席でも、似たような光景を見つけた。

「わうーー! 妖怪のしわざやっ、妖怪イッテンタリナイが悪さしたんやーー!」

「おつかれ金城さん。塾行き決定かな?」

「まだ王手かかっただけで詰んどらへん……1点分は待ったかけるしかないやろ」

「塾。ですか。私もお父さんから圧力かけられてます、今どきの子はだいたい行ってるよねって」

 金城、戸高、そして己己己己の女子グループが各々の答案用紙をまとめた。

「戸高さんは、塾行ってましたよね」

「うん、中学上がってからすぐに。最初は下校のすぐ後の時間にしてたけどアレはやめたほうがいいよ。忙しいから」

「ウチの従姉妹らも晩ごはん食べた後に行っとるらしいわぁ、聞くだけでメンドそうやでホンマ」

(オレも親に言われるまでそれっぽい話はしないでおこ)

 看谷は手札のように答案たちを広げた。

(塾通いでごっそり時間取られるくらいなら、毎日少しずつ勉強するか……。平均点以下は無いし今回はセーフだよな?)

「ケータイは買ってもらえそうですか? 看谷さん」

 と。己己己己が隣の席に戻ってきたので、看谷は反射的に点数を伏せた。

「……たぶんな。ケータイのためにテストがんばったっておまえに話したっけ」

「安藤さんや黒瀬さんに言ってたじゃないですか。看谷さんのお話ならなんでも聞いてますよ……隣の保健委員として」

「ま、またおまえはそういう。ヒトの健康のためにヒトにプレッシャーかけてどうするんだ」

「イヤですか?」

「~~っ。そんなことより点数勝負しようぜ!」

 己己己己は「はい」と無表情の口元をニッコリさせながら、看谷がやっていたように答案を手札にした。

「おたがいに得意不得意があるから、科目ごとの勝ち負けよりも合計点数が本番な」

「いいですよ。看谷さんがそう言うなら」

 頷いた己己己己に対して、看谷は内心ほくそ笑んでいた。

(ふふふ……やっぱりバカだな。もう勝ったつもりか? 中間の時とは違うのさ)

 中間テストでは看谷は赤点ギリギリセーフの点数ばかり、己己己己は赤点アウトの焼け野原な点数ばかり取っていた。

 点数では己己己己に勝っていたのに看谷は彼女の口八丁に負け、いろいろと屈辱を味わったものだ……。

 しかし今回はプライドとケータイ購入をかけて、より一層がんばったのだ。

「じゃあ私から。保健体育100点、家庭科100点」

 看谷は「うあ!?」、のけぞった体と心が折れそうだった。

「ひゃ100点!? ままままあその2つは自信あるって言ってたもんな想定内想定内っ、ひゃ、ひゃひゃひゃひゃく……」

「ドクターストップ」

 看谷は「しなくていい!」、己己己己の机の上にオープンされた2枚がまばゆくて直視できなかった。

「オレは……保健体育76点、家庭科69点」

「わあ。スゴいです、がんばったんですね。ありがとうございます」

「お、おまえにありがとうなんて言われることはないだろ」

「じゃあ次、私は国語96点と数学80点と理科94点です」

「ありがとうございますッッ……!」

 終わった。負けた。看谷が出した答案のうち、苦手な国語と理科は64点と61点、得意な数学でも77点だった。

「がんばりすぎだろ……! おまえのことだから、前回みたいな点数じゃ終わらせないとは思ってたけどさあ!」

「私ががんばるって信じてくれてたんですね。ありがとうございます」

「だ、だから言われることないし言ってないし!」

 これ以上の先手を打たれる前に、看谷は残りの答案をさらした。己己己己も倣えば、やっぱりぜんぶ彼女の勝ちだった。

「ったく。10点20点の世界にいたのにいきなりコレって、どんながんばりかただよ」

「いきなりじゃないです。私、毎日こつこついっぱいがんばりました」

「そりゃそうだろうな。親にそーとーニラまれたんだろうし」

「それもありますけど。塾に行かされたくなかったんです」

 看谷は目を丸くした。

「……へえ。なんか、おまえにしたら後ろ向きな理由だな? 良い点取って、ごほうびでも狙ってたならわかるけど」

「そうですよ」

 己己己己が看谷と同じように首を傾げれば、長い髪の1房が答案たちの上にそよいだ。

「塾なんかに行ったら、看谷さんとゆっくり帰れないじゃないですか」

 ……看谷は言葉を失った。

「っ……っ……~~……!」

 身をよじって。どこでもないどこかを見上げて。立ち上がろうとしてやめて。腕組みなんかして。

 そしてようやく、己己己己へ向き直った。なんにもブレずに看谷を見つめたままの彼女へ。

「…………100億歩譲って、そんなことがごほうびだったとして。べつに、もっと遅い時間とかに塾にすればいいじゃん」

「それもダメです。だって看谷さん、ケータイ買ってもらうんですよね?」

「は? ああ、まあ、うん、そのつもりだけど」

「がんばってくださいね。私も、がんばりますから」

 看谷は「はああ?」……上機嫌そうに答案をカバンへ詰めた己己己己が、どういう頭をしているのかわからないのだった。

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