8-2「期末テスト」
期末テスト、初日。
看谷の苦手な化学のテストが早くもやって来ていた。
(大丈夫。授業の復習、板書の見直し、追い込みのテスト勉強……できることはやったはず)
先生2人が教室の前後から見守るなか、筆記用具の音ばかり連なる静けさは気を抜くと重苦しい。
クラスメイトたちが鼻をすすったり上履きをキュッと鳴らしてしまう響きさえ、ことさら際立って聞こえた。
(弱気や不安がいちばんの敵だ。集中しろ。『ファイナルレジェンズ』のレイド戦を思い出せ……ああーーゲームしたい)
残り解答時間は1/3といったところか。そろそろ集中力に魔が差してきた。
それでもなんとか、マークシートの最後のマスを引っ掻き終えた。
(よし、思ってたより早く終わった。マークシート様々だな。少なくとも記述問題は無いし)
シャーペンとマークシートをちょっと脇へ除けて、看谷は問題用紙の冊子を1ページずつめくっていった。
設問の脇には選ぶべき番号のメモ書きが散らばっていたのだが、少なくない数の『△』や『?』が添えられていた。
(……けっこう当てずっぽうにしちゃったな。もう一度見直し……てもなあ、変えてハズすかもだし。べつにいいか?)
正直、とりあえずはやりきった安心感から緊張の糸が切れていた。見直しをしなくていいだろう理由を探していた。
その時だった。エンピツが落ちた軽い響きが、看谷をまたたかせたのは。
「…………」(己己己己? ……エンピツ使ってたっけ?)
看谷のエンピツではない。隣の己己己己の机から落ちたものだ。
おもわず拾ってやろうとしたが、己己己己に目で止められた。
そう、落ちたモノを拾うためでもテスト中に屈んだりするのはバッドマナーだ。すかさず、先生が代わりに拾いに来た。
ただ。妙なことに、己己己己は先生へ首を振ってみせた。
それどころか看谷を指差してみせたから、エンピツが渡されてしまった。
……根元が削られ、角ごとに1~6の数字が書かれたエンピツが。
(はあ? サイコロエンピツ?)
看谷は先生に怪しまれない程度に、隣の席を横目で覗いた。
「…………グッ」(親指立てるな。なんだその顔)
『悩んでいる時はお互い様、どうぞ使ってください』の顔である。
(ああなるほど、悩んでるところは運試しでもどうぞって? オレのこと見てないでテストに集中しろテストに)
サイコロエンピツを転がしてみせた看谷は苦笑やら失笑やら。
(わるいけど神頼み運頼みにはしたくないんだよ。当てずっぽうにした問題だって、できるだけ消去法で絞ってから番号のバランスをとって……)
しかし、そこまで思い返した看谷は「む」と眉根を寄せた。
(って。それってけっきょく、サイコロ振って決めてるのと大差なくないか?)
隣の席から、相づちでも打つようなベストタイミングで咳払いが転がった。
(なんかモヤモヤしてきた……ああくそっ、見直しして時間いっぱいまで悩んでやる……!)
サイコロエンピツを筆記用具として正しく握りしめた看谷を、咳払いに隠した笑い声がくすぐったが。絶対にそっちは見てやらないのだった。




