7-3「設定ノート」
『『ナイト』ジョブのハルトは不遇だった。
男の子が一度は憧れるだろう『騎士様』なのに、その強さは他のジョブと比べて微妙すぎたんだ。
(ところがある時、生死のフチをさまよったハルトは神様から不思議な力を授かる……と)
数少ないHP回復効果付きのスキル、『シールドラリアット』ってものがある。
確率で敵をスタンさせられる範囲攻撃スキル。ただしダメージは低く、命中した数だけ発生するHP回復効果もオマケ程度。
いわゆるハズレスキルだ。
だが。通常ならレベル3までしか強化できないそれを、ハルトはレベル9999まで上げられるようになったんだ。
(……レベル9999って、なんかバカみたいだな。まあ細かいことは置いといてっと)
『シールドラリアット』は確定スタンの超回復スキルへ変わった。戦えば戦うほどキズが治るようになったわけだ。
敵の数が多ければ多いほど効果を活かせるから、ハルトはゼツボウ的な戦力差の大軍相手でもすすんで突撃していって、その全てで無双の勝利をゲットしていった。
付いた異名は《対軍騎士》、《リビングシールド》、《廻生のハルト》、《星薙ぐ命運》(アンノウン・フォール)、』
「その耳かきの絵、カッコいいですね看谷さん」
「剣だよ、って勝手に見るなよ……!」
隣の席の己己己己が覗き込んできたので。看谷はとっさにノートを閉じると机の端っこへ逃がした。
看谷画伯によるスパイシーな騎士のイラストも、一瞬しか見られていないはずだ……。
「でもソレ、私が前に貸したノートの気がするんですけど……」
「えっ、ウソ? 違うだろほら……あっ?」
……とっさに差し出してみせたら、ついばむように盗まれた。
「パラパラパラ……あ、ホントですね。私が貸したノートの気がしましたけど、そういう気がしただけでした。これっていわゆる『設定ノート』ですか?」
「ぐ……そう、だよ、いっそ殺してくれ」
現国の授業中。先生に問題をアテられてもアドリブがききやすいからと1人遊びに熱中していたら、その油断をかっさらったのは先生ではなく隣の天然危険物だった。
「……ねえ看谷さん。このナイトさんって1人ですか? 仲間は?」
「はあ? いやべつに、暇つぶしで書いてただけだからそこまで考えてないけど……。1人なんじゃないか? そのほうが孤高のヒーローっぽくてカッコいいし」
「なるほど。好きなものは? 年齢は? もっと掘り下げたいです、もっとください」
「おまえ今、保健委員どころか人としてやっちゃいけないことやってるぞ……ううう……」
それは『掘り下げる』でなくて『抉る』というのだ。黒歴史が刻まれる仕組みがなんとなくわかった気がした。
「あ、ごめんなさい。返しますね」
「……急にあっさりだな」
「そうですか? 私、看谷さんがキズつくことはしたくないので」
「もうズタボロに近いんだが」
「大丈夫です」
「何が?」。看谷の呆れ顔に答えず、己己己己は板書の遅れを取り戻す調子で自分のノートへ向き直ったのだった。
◯ ◯ ◯ ◯
休み時間の終わりに看谷が席へ戻ると、ノートから切り取られたページが数枚伏せられていた。
「ぷふゅいー……ぷぃっ、ぴゅひ」
(吹けてないぞ口笛……)
次の授業の予習をしている己己己己は、こちらには目もくれなかった。
妙な予感がしたが、着席した看谷はページを裏返して。
(……げ? これって、オレが書いてたみたいなキャラ設定か?)
そこには。看谷があの設定ノートにしたためたように、とりとめのない小話があったのだ。
『『魔法使い』のイエは、なんと、ケガや病気を治せる魔法が使えました。
(んん? ……回復魔法ってことだよな、『なんと』もなにもフツーじゃん)
私、こういうゲームとかアニメはあんまり知らないのでヘンなこと言ったらごめんなさい。
(いいんだよそういうのは)
でも、イエはいつでも信じていました。
誰かが誰かに元気でいてほしいって思う気持ちを。
そしてその気持ちが本当に叶えられるのなら、魔法でもバンソウコウ一枚でもスゴいことなのです。
あるナイトさんがいました。戦えば戦うほどキズが治っていく不思議なナイトさんです。
でも。彼が戦えば戦うほど増えていく心のキズは、いったいどうやって治すのでしょうか?
(……え?)
モンスターや悪い人から、恨まれて、憎まれて、怖がられて。それでも1人で大丈夫だなんて彼は強がっていました。
なのでイエは、ナイトさんのそばにいることにしたのでした。』
……看谷が隣を見てしまうと、首を傾げながらこちらを眺めていた己己己己と目が合った。
「……おまえな。オレをなんだと思ってるんだ」
「あれ? これって自作キャラのお話でしたよね?」
「ぐう」の音だけは辛うじて出した看谷へ、己己己己の指が『まだページの続きがありますよ』と促した。
捲ればそこには、添える程度の文章とイラストがあった。
『それと。1人で戦うのがカッコいいなんて思ってるナイトさんが、大ケガしないように見守ることにしたのでした』
医者か看護師のような魔法使いの女の子ににじり寄られて、ギクッとしている騎士の男の子。
そんなイラストが、女子特有のあどけないタッチで躍っていた。
「ハルトさん」
……己己己己ににじり寄られて、看谷はギクッとした。
「……って、自分の名前をキャラにつけるなんてカワイイですね。看谷さん」
「おおおおまえだってそうだろ!?」
「私のこの子はイエシキでもイエコでもなくてイエさんですから。実在の人物とは一切関係無いのです」
「ウソつけ!」
看谷 悠斗は、ネーミングセンスを磨こうと心に決めたのだった。




