1-2「バンソウコウ」
最後列の窓際から数えて1席、2席。
教壇からいちばん遠くて、先生の目から死角になりがち。授業とは関係無い小物を机上に出していたってそうそう気づかれない。
「い、って……ページで指切った」
「任せてください」
「本格救急箱……」
さて。己己己己の通学カバンから出された無垢材の救急箱は小物だろうか。
「手を出してください。消毒と、バンソウコウを巻いてあげますね」
「い、いいって授業中に、ツバ付けてたら治る」
「パクっ」。……己己己己は看谷の指をくわえてチューチューした。
「うあああああ!?」
「看谷ぃ! 授業中だぞ!」
椅子から跳び上がった看谷が「すいません!」と即着席すると、己己己己は口をすぼめたままきょとんとしていた。
「よく知ってますね。ツバには少しだけですけど抗菌殺菌成分が」
「そんなつもりで言ったわけじゃないんだよいろいろと……! わ、わかったからさっさと済ませてくれ……!」
上質感漂う紙箱からバンソウコウが取り出されて、粘着面を守る1対のシールが剥がされた。
「失礼します。……あっ」
「どした」
「指にくっついちゃって……ぐちゃぐちゃに」
「貼る前にシールぜんぶ剥がすからだろ……」
もう少しリカバリーできそうなものだが、数秒もかからないでバンソウコウダンゴが練られていた。
「片方剥がして、貼って、もう片方剥がすんだよ。……なんでこんなことを中1の保健委員に言ってるんだオレは」
「そうでした。忘れてました」
「忘れるようなことか?」
「剥がして、貼って、剥が……す前にギュッと締めて」
「いったいたいたいたいたい……!」
指先が白くなるくらいキツく巻き締められた。
「おい……!?」
「スキマがあると、ポケットとかに引っ掛けてペロンとなるので……」
「どうあがいてもなるんだよそれは! やり直し!」
その後……、
「ふう。今回は6枚も余りました、上出来です」
「……ひょっとして、1箱で1回分だと思ってる?」
「そんなことは。お徳用108枚入りなら3回は使えます」
バンソウコウがやっとキレイに貼られた時には、傷口の血は固まっていたのだった。