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最弱保健委員の己己己己さん  作者: 古丹那 リタ
第6話(6月2週目)
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6-3「学習学習」

 校外学習の締めくくりは、なんとかいう動物学の権威でもあるらしいベテラン飼育員の授業。

「動物にもニーズ……つまり必要なものがあります。私たち人間は『必要なもの』よりも『欲しいもの』が多くなりがちですが、この違いがわかりますか? 普通、野生の動物は『必要なもの』を手に入れるだけでせいいっぱいで……」

「……………………(連続指パッチンしている)」

「ふぁが。寝てへんてぇ、耳元で指パッチンすんのやめぇや黒瀬ぇ」

 園内を散策してバター作りまでして、最後にみんなで三角座りしながらの授業は眠気を誘ったものだ。

「己己己己ぃ……これ何分あるんだっけ」

「50分ですね。あと30分ぐらいです」

 相変わらずうたた寝一つこかない己己己己が、しおりのノート欄にシャーペンを走らせる音を聞きながら。看谷は潔く「そっか」、立てた膝に顔をうずめた。

  ◯ ◯ ◯ ◯

 遠出帰りの充実した疲労感。

 バスの中で、クラスメイトたちはオヤツの残りとともにバカ話に興じたり、あの授業の続きとばかりに寝ていたり。

 看谷は後者のほうだった。いつの間に駅前に着いたのかも覚えていない。

「それじゃあ、ここで解散としますが寄り道はしないように。明日のホームルームにしおりを忘れないでね」

 そうして先生たちが目を光らせるなか、生徒たちは繁華街の賑やかさから追い立てられるようにして帰路につかされた。

「看谷に己己己己ちゃんー、まーたなー」

「楽しかったね。また明日」

 黒瀬と金城とは駅前で早々に分かれたし、途中までいっしょだった安藤と戸高も帰っていった。

「看谷さん。寄り道していきませんか」

 そうして住宅地を2人で歩きだしたとたん、己己己己が言ったから。看谷は「おまえなあ」とあくびを噛み殺した。

「先生が見回りしてるぞ。オレ、金持ってないし」

「お金なんてかかりません。それに……先生たちもきっと来ないところですから」

 なぜだろう。看谷は不覚にもドキッとしてしまった。

 顔を向けた時には、己己己己はクイクイと手招きしながら歩みを早めていた。

「って!? 付き合うなんて言ってないぞっ……まだ!」

  ◯ ◯ ◯ ◯

 川の堤防に隠れた小さな児童公園。

 といってもブランコとベンチぐらいしか置かれてないし、誰もいない。住宅地の中でもへんぴな場所すぎるのだろう。

「ここ、ネコさんがたくさん隠れてるんですよ。オヤツの気配がすると出てくるんです」

 リュックを体の前に持ってきた己己己己に対して、看谷は「ネコぉ?」と訝しんだ。

「わざわざそんなことのために連れてきたのか?」

「わざわざだなんて。そんなことだなんて。金城さんがにゃんにゃんダービーで『ちゅるちゅる』しか交換できなかったとかで、使い道に困ってたのでもらってきたんです」

 ーーナァ~ン

 と、たしかに己己己己が液状オヤツのチューブを封切らないうちに草むらからネコたちが現れた。

 人馴れしているようで積極的にてちてちと歩いてきた……、

(おおう……撫でさせてくれるだろか)

 ただ、ふと見れば、

「騒がない、急に飛び出さない、目を合わせ続けない……」

 首を傾げるネコたち相手に、歴戦の潜入工作員じみた中腰歩きでにじり寄る天然危険物が一人。

「おい!? またやられるぞ!?」「あうっ」

 看谷が急に大声をかけてしまったせいで、集中しきっていたのだろう己己己己の後ろ姿が飛び上がった。

 彼女の手からチューブがすっぽ抜けて、

 野良にふさわしい眼光をキラめかせたネコたちが一斉に飛びかかってきて、

 けたたましい鳴き声の嵐。

 ……ニンゲンにはもはや目もくれず、チューブをめぐって気ままにネコ団子が躍る。

「……ありがとうございます。看谷さん」

「お、おまえ、なあ、な、な、な」

 一方。飛び上がった拍子に転びかけた己己己己と、彼女をかばおうとしたポーズのまま抱きつかれてしまった看谷と。

「ふれあい。できましたね」

 看谷は「うあ!?」、間近から見つめられて。己己己己がぶっ飛ばない程度の勢いでバッッと離れた。

「今日の校外学習。いろんな動物にふれあえて、楽しかったですね」

「あ……こうがい、がくしゅう……そ、そうだなまったく!」

 看谷は脱力した膝に任せてしゃがみこんだ。次のオヤツを期待しているネコたちをめちゃくちゃに撫でる。

(~~ったく! 勝手に騒ぐわ急に飛びついてくるわなんかジッと見つめてくるわ……学習しろよ!)

 早鐘を打つ胸の中に叫んで……、ふと、気づく。

 ーー「はしゃぎすぎて動物を怖がらせないようにね。大声で騒ぐ、急に飛び出す、目を合わせ続けるのも嫌われるわよ」

 ーー「そんなもんかなー……オレだったらべつにイヤでもないけど」

(……あ。……そうか。そういうことか、くそぅ)

 めんどくさいしすごく困るが、胸から伝わって顔や指先まで火照るのを感じる。

(めんどくさいしすごく困るが、オレはべつに……イヤでもないのか? こいつがこうして……)

「よかったです。せっかく看谷さんと会えたのに、ヒツジさんに蹴られてふれあえなかったですから」

「はあ!? なんっ、だからどういう意味だよそれ!?」

「どういう意味って? 看谷さんのことですから、私がついてあげないとアウトローぶって動物とふれあわないかと」

「そんなわけあるか! 全編とおして堪能してたわっ、ほらこんなふうに! ワシャワシャワシャ……!」

「ですか。ワシャワシャワシャワシャ」

 どうか、またまかり間違って指先一つでもぶつかってきませんように。看谷は願った。

「……ふふ」

(楽しそうに。人の気も知らないで能天気なやつめ、天然危険物め)

 遠出で疲れた体が火照っているのは己己己己も同じようだったが……、次こそは言い訳できそうになかったから。

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