6-2「体験学習」
(あー……疲れた。校外でまであいつを保健室に、いや救護室に連れてくハメになるなんて)
看谷は、体験教室や資格講習に用いられる会館にいた。
自動販売機と丸椅子しかない休憩スペース。裏口のそばで隠しエリアじみていて、他に誰もいないのが落ち着けた。
(安藤も黒瀬も金城も戸高もいつの間にか消えやがって。まあチェックポイント回りは終わってたからいいけどさ)
廊下の向こうに同級生たちの話し声が増えつつあって、壁掛け時計を見上げる。
(『あとは一人で大丈夫』って先に行かされたけど、ずいぶん遅いな……)
「あ。看谷さん」
「己己己己? なにやってんだよ、バター作り体験はじまっちゃうぞ」
開かれた裏口からの声に、振り向く。
「てゃでゃいみゃ戻りますた……」
「バターになってるッッ!?」
ドロドロに、這う這うの体にトロけた己己己己がそこにいた。
「どうした!」
「アタマはだいじょぶでふ」
「聞いてないしそうは見えない!」
「スタッフの人たちが、お詫びにってバックルームを覗かせてくれたんです。獣医さんにも興味があるので。興奮しすぎてアタマ痛くなっちゃいました」
「じゃあ大丈夫じゃないじゃんアタマ」
おデコには湿布を貼られているが、まあ前髪に隠れているので目立ちはしないだろう。
「それでですね、それでですね。看谷さんにも聞いてもらいたいことが……」
「まてまて、後にしてとにかく体験教室行こうぜ。チェックポイント回りきってもコレやってないと赤点扱いだぞ」
己己己己は「そうですか?」、呑気なものだった。
◯ ◯ ◯ ◯
「みなさんにも搾ってもらった採れたての生乳ですからねー、感激もひとしおですねー。できたてのうちに、お配りしたクッキーと一緒に食べてみるのをオススメしまーす」
土産屋で買えるプレーンクッキーの試供品を紹介してみせる、アコギなスタッフの説明は看谷の耳に入らなかった。
「生乳を生クリームにして、密封、冷やしながらよく振って、開封、かき混ぜて出る水分を移す、これを繰り返します……」
己己己己が、完璧な手際でバターを作ってみせたからだ。
「バターができたら、できたてのうちにクッキーに塗って、看谷さんへ。おしまいです」
「もが。……ッ、素直にウマいだと……!?」
「素直じゃないですね。私をなんだと思ってるんですか。花嫁修業に含まれるものならだいたい得意ですよ、むふん」
(バンソウコウ1枚まともに貼れないヤツなのに……!)
「ところで看谷さん、さっきのお話の続きなんですけど聞いてください。私、バックルームで牛さんの直腸検査を体験させてもらったんです。命のぬくもりがまだこの手に残ってるみたいで感激です」
看谷は「え?」。己己己己の手作りバター&クッキーを呑み込んだ。




