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最弱保健委員の己己己己さん  作者: 古丹那 リタ
第5話(6月1週目)
15/55

5-3「衣替え」

 6月1日。

(なんか忘れてる気がする……)

 学ランの詰襟をいじりながら、看谷は早朝の小路を登校途中だった。

 と。脇道の角から、ゆるふわロングヘアーをそよめかせた人影が現れた。

「ん。おはよう己己己己、なんか早いな……」

「おはようございます。さてクイズです、今日の私はちょっとだけ違うところがあるんですけどわかりますか?」

「な、なんだよいきなり……そういうの」

 いつもより早く出くわした己己己己は、半袖の制服からあらわになった細腕を広げてみせた。

(そういうのは付き合ってるヤツらがやるやつだろ!? くそぅ、いつもの天然だってわかってても己己己己め!)

 無表情に口元だけニッコリしている。とりあえず上機嫌のようだ。

「……前髪切った?」「定番のやつですけど違いますね?」

「靴変えた?」「下履きですけど?」

「カバンになんかアクセサリー……?」「変えてないですし、それって私の違いとはちょっと違いますよね?」

「わるい、マジでなに?」「……。さーあ?」

 とたんに、踵を返した己己己己は先を歩きだした。

「え? え、ちょっ、正解は!? 己己己己!?」

「そういえば看谷さん、今日は肌寒いですね」

 「はあ!?」。看谷はしばらく食い下がったが、己己己己はいつものマイペースにおしゃべりするだけだった。

  ◯ ◯ ◯ ◯

「夏服だ~、いいねえ己己己己さん。でもちょっと寒くない?」

「ちょっぴり」

「今日から衣替えやからて無理に合わさんでもよかったんちゃう?」

 登校して。ホームルーム前のスキマ時間。己己己己と戸高と金城が話しているのを聞いて、看谷は愕然とした。

(それだああ……!!)

「……………………(看谷に手を差し出している)」

「え、な、マンガ? あ、ああわるい黒瀬、面白かったよサンキュ……」

「むむ、看谷からイチャコラのかほりー。己己己己ちゃんとなんか事件ー?」

「べつにイチャコラしてないし! 事件ってほどでもないし! ……たださ……」

 黒瀬と安藤へ、看谷は登校中にあった『クイズ』のことをこっそり話した。その正解だろう『夏服』についても。

「看谷ぃ、朝っぱらから何やってんのいろんな意味でー。なんで気づかないんだろねこの人はー」

「……………………(看谷を見守っている)」

「くっ、やっぱり話すんじゃなかった。黒瀬もやめろその生暖かい目」

 ニヤケ面と呆れ顔から看谷は目を逸らした。

「だってただの夏服だぞ? 衣替えなんだからそりゃ普通に着替えてくるし、長袖から半袖になったからなんなんだよっ?」

「それがフクザツなー女心ー……なあんちゃって。あの己己己己ちゃんのことだしボクにはわかんないわー」

「……………………(力こぶを叩いてみせている)」

「オレに上腕二頭筋見せたかったとか、ってあいつもそこまでヘンなヤツじゃないから! ……たぶん」

 脱力感とともに盗み見れば、

「……? 看谷さん、お腹痛いです? いっしょにトイレ行きます?」

「立たなくていい! 座ってろ!」

 目が合った彼女は、やっぱりいつもどおり。

 気にしているのがむしろアホらしいくらいだったが、やっぱりモヤモヤしてしまう看谷だった。

  ◯ ◯ ◯ ◯

「え、おまえも『すぱい1/2』知ってんの? へえ~っ、先週の最後のシーン見た?」

「キティコーナーショットでしたっけ。ビックリしました」

「そう! エンディング曲の演出を逆手に取ってあんなふうに復活するなんてさあ!」

 今朝と同じ、いつもと同じ小路を看谷と己己己己は下校していた。

「さてクイズです、今朝の私は看谷さんにあるクイズを出しましたがどんなクイズだったでしょうか?」

「なんでそういきなりなんだおまえは!?」

 けっきょく学校の中では一度も掘り返してこなかったのに、話の流れをぶった切ってコレである。

「今日の己己己己がちょっとだけ違うところあるってクイズだろ……」

「えっ、あっ、あれ? よく覚えてますね看谷さん」

「はあ? あんないきなり始まって、正解も言われずにいきなり終わったらイヤでも覚えてるじゃん」

「なるほど。実はですね、あのクイズの何が正解かは重要じゃなかったんです」

 看谷がもう一度「はあ?」と眉根を寄せても、己己己己は種明かしの調子で人差し指を立ててみせて。

「テレビで『物忘れ』についてやってたんです。昨日の晩ごはんでもなんでもいいので、『思い出す』ってことを習慣づけると認知症予防になるんですって」

「会って早々の謎クイズなんか忘れられるか!」

 もっと、どうでもいいような会話の中にこっそり仕込んでおくべきだろう。さりげなく。そこはかとなく。

「へえ。ふうん。忘れてなかったんですね」

「だ、だからそう言ってるだろ。正解は夏服……だよな、すぐにわからなかったオレをせいぜい笑えよ」

「そうですね。でも言ったとおり、何が正解かは重要じゃなかったのでべつに笑ったりしないですよ」

「笑ってるじゃないかよ」

 無表情に口元だけニッコリしている。とりあえず上機嫌のようだ。己己己己はまたも数歩前を歩きだした……、

「……あ。おまえさ、前髪は変わってないけど後ろの髪はちょっと切っただろ」

 己己己己が、何も無いのによろめくみたいに振り向いた。

「…………はい。すいてもらいました……涼しくしようと、思って」

「あ~オレも夏服にすりゃよかったな~。今日は寒いけど学ランよか絶対ラクだって、なんで忘れてたんだろ」

「あついので先に帰りますね。バイバイです看谷さん」

「え? え、ちょっ、寒いって言ってただろ!? 己己己己!? なんでそういきなりなんだおまえはあ!?」

 数歩分の遅れに追いつく寸前、己己己己は軽くなった後ろ髪をそよめかせてダッシュしていったのだった……。

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