4-2「石鹸」
保健委員の仕事は、なにも怪我人や病人が出てからだけではない。
クラスメイトたちが健康でいられるように、誰も気にしないような予防策に気を配るのも大事だ。
「う~~ん~~~~……です」
「せっけんの補充か? 己己己己」
「あ、はい。悩みがあるんですけど聞いてもらえますか」
朝。看谷より一足早めに登校していた己己己己が、トイレ前の手洗い場でうなっていた。
石鹸と、蛇口に石鹸をぶら下げる用の網が入った段ボール箱を台車に乗せていた。
「ここに、もうすぐ使いきりそうなせっけんがあります」
「うん? うん」
己己己己が手に乗せてみせた網の中に、ドロップ飴ほどの大きさにすり減った石鹸があった。
彼女が入れたのだろう真新しい石鹸が入った網はむしろ少なくて。そろそろ補充時期だろうに手付かずの網が多かった。
「私、雪だるまとか入浴剤が溶けてちっちゃくなってくのを見ると悲しくなるんです。私がここで新しいせっけんを入れて、その裏とかに張り付いた古い石鹸が誰にも気にされずに消えてくのを想像すると……とてもとても補充できません」
「気にしすぎなんだよ!」
物に愛着を持てること自体は良いことなのだが……。
「モノはモノ! そんなこと言い出したら消しゴムとか使えないだろ!」
「ちっちゃくなったのを集めて、刻んで、バラして、おっきな練り消しにして蘇生させてますけど」
「刻んでバラすのは気にならないのかよ!? てか蘇生とか言ってる怖っ!」
生き物というか……かけがえのない『命』と見てしまったモノに、彼女は優しすぎる。
「……じゃあこう考えたら? せっけんも雪だるまも入浴剤も……おまえにそんだけ気にしてもらえて、最後に消えていく時も幸せなんだって……って……」
看谷はたじろいだ。
底知れない瞳を輝かせた己己己己の顔が、吐息を感じるほどの近くにあったからだ。
「な、ッ、なんだよ!?」
「ステキです」
「はあ!?」
なんとか1歩跳び退いても、彼女の目はまっすぐに看谷を捉え続けていた。
「気持ちが楽になりました。ありがとうございます、看谷さん」
「う……うん、まあ、べつに悩むほどの悩みじゃなかったし……」
「あっ」「あっ?」
己己己己の手から新品の石鹸がすっぽ抜け、足元へ。
反射的に動いたのだろう上靴のつま先が、石鹸を踏んだ。
「あうっっっっ」「だからああ!」
後ろへすっ転んだ己己己己を、看谷はなんとか受け止めた。……抱きしめそうになってしまって、即座にリリースした……。




