ユリウス様とのお別れです
広間の外に出た私は連れ出した隣の騎士を見上げる。
背が高く夜空のような黒髪にダークグレーの瞳でとても中世的な美しき騎士団長。
細いかと思いきや筋肉質な身体を持ちその強さから騎士団長まで最速で登り上げた挙句様々な勲章を総なめにしている公爵家の三男の彼は世の女性達がこぞって憧れを抱く男性の一人だ。
「姫様…お守りする事ができず申し訳ありません…ダミアン様からあれほど言われておりましたのに」
膝をつき首を垂れる彼は幼少期から王太子であるダミアンお兄様とともに育った幼馴染の一人なのでよく遊んでもらっていた。
「ユリウス騎士団長、お顔をあげてくださいませ。こればかりはどうしようもないことなのです…
子どもの頃からあなたは立場の弱い私を誰よりも心配してくれていたのはわかっています。感謝こそすれ恨むことはありません」
ユリウスの手を取りその手にある魔道具を握らせる。
「ユリウス騎士団長、いいえ、ユリウス様。私はもう平民となる身です。
もうお兄様たちに会えるかわかりません。なのでこの魔道具を誰にも見つからないようにダミアンお兄様に渡してもらえますか?」
「姫様これは…?」
「これはお母様のご実家が内々に発明した魔道具のピアスです。私がこれをつけている以上どこにいるかがわかるのでお兄様に渡して欲しいのです」
この魔道具であるピアスは兄妹を繋ぐ事ができる最後の手段である。
きっと影から話が入りこちらに向かっているであろうお兄様が間に合うことはない。
血が繋がっていなくても誰よりも私を大切に慈しんでくれていたお兄様たちに、会えなくても私が元気に暮らしている場所だけだも知っていてもらいたい。
そんな気持ちで私はユリウス様の握っていた手を離した。しかしユリウス様に手を握り返された。
「姫様…必ず、必ずお迎えに上がります。それまで頭の片隅でいいので私の事を置いてくだされば嬉しいです…それまでお身体を大切にしてください…」
そしてユリウス様は首からネックレスを取り外し私の首にかけた。
「お守りにもならないものですが…私の代わりにお連れください。私はいつでも姫様と共にありたいのです…」
綺麗ならダークグレーの瞳で見つめてくる彼はきっと二度と会えない。幼少の頃から守り続けてくれた人。
何も言えず笑顔で応えると自分の部屋へ向かった。
そして少しの荷物を持ってお城を後にした。