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塀の彼岸  作者: 炉瓶
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俗世の洗礼

 流間部を進んでいるうちに、澄史は周りの景色が徐々に面白いほど変化していくことに気づいた。鉄の門のあたりには、白い塀に囲まれた立派な門構えの家ばかりが建っていたのだが、もう少し先へ行くと、だんだん家の敷地が狭くなっていき、中には塀の代わりに背の低い垣根で囲ってあるだけの家も目に付くようになってきた。

 さらに進むと、家々の囲いはなくなり、小さな家が大きな道の両側に密集するようになった。この頃には日も高く昇り、気が付けば道は人々でごった返していた。大声で客を呼びながら桶に入った魚を売り歩く商人、うまそうな匂いを漂わせる屋台、これでもかというほどの荷を積んだ人力車、もうもうと立ち上がる土煙…。生まれて初めてこんなにも多くの人を見た澄史は何だか頭が朦朧としてきた。

「っと!若いの、気をつけな!」

澄史の馬の速度が一瞬落ちたせいでぶつかりそうになった男が、追い越しざまに澄史に叫んだ。

「す、すみません…。」

そうは言っても、どう進めというのだ。見渡す限り人、人、人で、どう進んでも誰かにぶつかってしまいそうだ。

 人々の衣装の彩りも、澄史をくらくらとさせる。見渡す限り全員が違う着物をまとっている。忠清寺では有り得ないことだ。臙脂(えんじ)、瑠璃、萌黄(もえぎ)、藤、茜。色の違いだけでなく、花模様や唐草模様など柄まで一つ一つ違う。はっとするほど鮮やかな色をした異国の衣も随所に見られる。きゃっきゃと笑いながら子どもが近くを走り回り、大きな籠を背負った女たちが真横を通り過ぎていく。

(どうなってるんだ…)

澄史は、この人混みが(うごめ)く巨大な生き物で、その中に自分が飲み込まれていくような気がしてきた。

 一瞬目を閉じる。頭ががんがんと痛み、吐き気がしてくる。何でもいいから、とにかくここから出たい。出たい、出たい、出たい…。 

 突然、澄史は目の前が蠟燭を吹き消したように真っ暗になるのを感じ、そのまま深い深い闇に落ちていった。



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