緋色のママは呂色のパパとデートしてる!
数多くある作品の中から、こちらへお越しいただき誠にありがとうございます。皆様、お世話になっております。葉椀メギです。
『緋色の悪役令嬢は呂色の薔薇を染め上げる』&『呂色の元薔薇は緋色の元悪役令嬢に愛を告げる』の番外編。ロイロとスカーレットたち家族のお話になっております!
『緋色の悪役令嬢は呂色の薔薇を染め上げる』&『呂色の元薔薇は緋色の元悪役令嬢に愛を告げる』、そして『緋色の公爵令嬢は呂色の薔薇に会いに行く』の方に評価やブックマーク、ご感想をいただき誠にありがとうございます。大変励みになっておりますし、個人的に元気をいただいております。
お読みいただいている方々に盛大な感謝を。
こちらどうか楽しんでいただけますように。
心を込めまして。
「マルーン、行くぞ!」
「わかってるよ…!ラセットおにいちゃん!」
小さな子どもが何かを追いかけて走っていた。
だが、ターゲットを見つけた途端に、二人は気が付かれないよう物陰に隠れる。
「みてみて!ママ、すっごくうれしそう…マルーンもうれしい」
顔に両手を当ててマルーンは微笑む。
その姿はまるで、天使のようだ。
先月で5歳になったマルーンは、父親譲りの呂色の髪にチョコレート色の瞳をした可愛らしい女の子。
「うん…!ほら、パパだってわかりづらいけど笑ってるよ。そういえばこの間なんか、ママにナンパしてきた男たちをぶっ飛ばしてたんだぜ!パパは強くてカッコいいよな」
歯を出して笑う姿がなんとも愛らしいラセットは7歳。母親譲りの緋色の髪にキャラメル色の瞳を持つ元気いっぱいの男の子だ。
「ママなんて、昨日からずっと楽しみにしていたのよ!今日なんてお昼ご飯作る時、ずっとにこにこだったんだから…!」
「パパだって、ずっとそわそわしてたよ。おれの頭撫でて落ち着こうとしてたみたいけどさ。おかけでおれの髪、ぐちゃぐちゃになった!」
二人はこそこそと顔を見合わせて、笑い合う。
「あっ…!やばっ、パパたち見失っちゃうぞ。マルーン、手を出して」
はぐれないように、と言ってラセットはマルーンと手を繋いだ。
「今日はママたちの結婚記念日だもんね!正義の味方である、あたしたちがパパとママの無事を見届けなくちゃ…!」
ふんす、と鼻息を荒くしてマルーンは興奮したように言った。
二人は最近読み聞かせられている絵本、弱き者を助ける正義の味方が出てくる物語に夢中だ。
その為、大切なパパとママのデートが何事もないように見守るのは自分たちの役目だと張り切っているのである。
「そうだ、それがおれたちの使命だからな!パパとママを守り抜くぞ!」
おー!と勢いよく子どもたちは片手を上げて叫ぶと、バレないように隠れながら跡を追いかけるのだった。
◆◇◆◇◆
「ふふっ…見て、ロイロ。あの子たちあれで本当にバレていないと思っているのかしら」
「こら。意地悪を言ってやるな、スカーレット。ラセットもマルーンも、真剣に守ろうとしてくれてるんだから」
ショーウインドーのガラスに映る、二人の小さな子どもの姿に目を向ける。
子どもの尾行など、大人二人にはバレバレ。
しかも、魔力量が多い父ロイロは子どもたちに何かあってはならないと、子どもたちを守る防御用の結界まで本人たちにバレないように展開していた。
「午後からはお友達のお家に遊びに行くって言っていたのに…嘘をついてまでついて来ようとするなんて。嘘をつくのは良くないことよ?でも…それがわたしたちを守りたいからっていうのが、本当に可愛いわ」
慈愛に満ちた瞳でそう語る彼女は、悪役令嬢だった頃のような少女の面影はなく母親の顔をしていた。
「…ああ、僕たちの子どもはとても可愛いよ。母親であるスカーレットに似てね」
「あら、いやだ。ロイロったら」
完全に二人の世界である。
「とりあえず、本来の目的であるデートをしつつ、二人の様子を見守り…こほん。見守られましょう?」
「そうだな」
ロイロとスカーレットは、はぐれないように…ではなく純粋に繋ぎたくて手を繋いで、子どもたちが尾行しやすいようにゆっくりと歩き出すのだった。
♦︎♢♦︎♢♦︎
ロイロとスカーレットは、ラセットとマルーンを連れてよく遊びに来る公園へと足を運んだ。
そして、ベンチへと座り込み話し始める。
公園にはすべり台やジャングルジムにブランコなど…子どもが楽しく遊べる遊具が並んでいる。
そこに、いつもラセットに背中を押してもらって漕いで遊んでいるマルーンの大好きなブランコがあった。
「ブランコ…」
マルーンの意識がブランコへと向いていく。
「こら!ダメだぞ、マルーン!おれたちはパパとママをを守りに来たんだぞ」
「え〜、でも…」
マルーンは少し泣きそうな顔になる。ブランコで遊びたくなってきたらしい。
「…それなら明日、一緒に遊びに来よう?絶対楽しいぞ」
「本当…?」
「うん!約束な」
「じゃあ、がまんする!」
マルーンは笑顔で良いお返事をした。
妹のことをちゃんと考えているラセットに兄として、そして人としての成長を感じ、集音魔法を使って聴いていたロイロとスカーレットは感動の涙を流していた。
公園の前でこそこそしている子どもたちに、店の前を掃除していた若き時計屋の店主ウェルドは不思議に思い、声をかけた。
「ラセット、マルーン。何やってるの〜?公園で遊ばないのかい?」
『しーっ!!!!!』
「えっ」
二人からの突然のお黙りなさい、に驚く店主。
一度、時計を修理してもらいに家族でウェルドの店を訪れてから顔馴染みの三人である。
「もう!ウェルドおにいちゃんてば、だめねえ。マルーンたちは、正義の味方なの!だから、こっそりパパとママを見守ってるのよ…!」
声をひそめて、マルーンは答える。
「そうだ!おれたちは…ママたちを守る正義の味方なんだ!」
ラセットもカッコつけて言うのだ。
ウェルドは返ってきた内容に微笑ましく思い、持っていたアメを同じようにしゃがんで、二人に差し出した。
「二人とも、これはね…もっともっと正義の味方として強くなれるように勇気をくれるアメなんだ。両親想いのキミたちにあげようじゃないか」
「本当…!?ありがとう、ウェルドおにいちゃん!」
「ウェルド兄ちゃん、ありがとう」
二人は瞳を輝かせて、アメを受け取った。
気がつくと公園から立ち去ろうとしている両親に、二人は慌てて立ち上がる。
「ウェルドおにいちゃん、マルーンたちもう行くね!」
「バイバイ!また遊ぼうね…!」
二人は駆けていく。
その様子にウェルドは羨ましくなるのだ。
「ああ、家族ほしー…」
寂しい男のつぶやきが公道に響いた。
それから、子どもたち二人はロイロパパとスカーレットママを見守り続けた。
ロイロパパとスカーレットママは噴水を見たり、街の屋台で串焼きを買ったり…
子どもたち二人は時には噴水に興奮しながら、時にヨダレを垂らしながら…楽しそうな両親の姿を見守るのだった。
「ラセットたいちょ!右に曲がったであります!」
「本当だな!マルーン隊員。あそこを曲がったら、ムキムキな奴らがママたちを襲ってくるかもしれない、追跡だ…!」
正義の味方からいつの間にか"ロイロパパとスカーレットママを守り隊"に入隊していた二人である。
今、現在。二人はケーキ屋さんに入っていくところを見守っていた。
「ラセットたいちょ!きっと、あれは我々へのおみやげであります!」
「そうだな!マルーン隊員。オレはいちごのショートがいいな…」
「マルーンはチョコレートケーキがいいであります…!」
ケーキ屋さんの壁に張りついて、こっそり店内をのぞき込むちびっ子たち。
そこへ、追加のフルーツを買い出しに出かけていたケーキ屋さんの店員カナリーが通りかかった。子どもたちに気づき声をかける。
「あら、可愛いおふたりさん。いらっしゃい、おつかいかしら?」
突然、声をかけられたことにラセットとマルーンは驚きながらも元気よく否定した。
「ごめんね、ちがうの!マルーンたちはパパとママを見守ってるの!」
「そうだよ、おれたちはパパとママを見守ってるんだ!」
笑みをこらえるのに必死なカナリーである。
「それは頼もしいわね!パパとママっていうのは、呂色の髪の男性の方と緋色の髪の女性の方かしら。あなたたち、ご両親にそっくりねぇ!」
カナリーの言葉に二人は嬉しそうに目を輝かせた。
「そうなの!マルーンは美人なママに似たの!」
「おれはパパに似たんだ…!パパに似て強いんだぞ!」
弾ける笑顔で答えるちびっ子たちにカナリーは尊死せぬよう、必死に魂を繋ぎ止めたのであった。
「…ハッ!ご両親が出てくるわよ!その様子だと、こっそり見守ってるんでしょう?」
ほらその看板のうしろに隠れて、そう言うとカナリーは看板の前に立つようにして出てくるお客様を見送る。
「お買い上げ、ありがとうございましたー!」
カナリーはロイロたちにそう声をかけ、お辞儀をした。
すると「こちらこそ、ありがとうございました」というスカーレットの言葉に、あら?これ気づいてらっしゃるわ…と悟るカナリー。
ロイロたちが遠ざかるのを見送るとカナリーは子どもたちに声をかける。
「さあ、お二人さん!パパとママを見失っちゃうわよ。気をつけてね」
「ありがとう、おねえちゃん!」
「また買いに来るね、お姉ちゃん!」
お礼を言って、慌ててロイロたちを追う子どもたち。
「ああ…早く結婚したいなー」
そんなことをつぶやいてしまうほど、彼ら家族が羨ましいカナリーなのであった。
「あ!ラセットおにいちゃん…!ここ、家に帰る時によく通る道だよ!」
「本当だ、家に帰るつもりなんだ!マルーン、急いで家に帰るぞ。ママたちをおかえりって出迎えるんだ」
「うん!ラセットおにいちゃん、家の鍵持ってるよね!?」
「もちろんだ!!」
お友達の家に遊びに行っていることになっているから、ロイロたちにお友達の家まで迎えに来られたりしたら困るというのもあるが…それよりも早くケーキを食べたい二人なのである。
パタパタと二つの足音が遠ざかっていくのを聞いて、スカーレットは口を開いた。
「さあ、ロイロ。わたしたちも早く帰りましょうか」
「そうだね、うちの可愛いお姫様方に早くケーキを届けてあげようか」
ロイロとスカーレットはそう言うと二人で笑い合い、家路へと急ぐのだった。
「ただいまー!ラセット、マルーン!帰ったわよー」
「ただいま」
「おかえり、ママ!」
「おかえり、パパ!」
子どもたち二人は手を広げて走ってくる。ロイロとスカーレットはいつものように、屈んで手を広げるのだ。
飛び込んでくる愛しい子どもたちにロイロとスカーレットは幸せを噛み締める。
あの頃のような暗い王城の地下ではなく、あの頃のような冷たい公爵家の大きな広い家ではなく。
今ここにあるのは、愛する子どもたちと愛しい伴侶と一緒に笑い合っていられる、自分の居場所。
「さあ、ケーキを買ってきたわよ。みんなで食べましょうか!マルーンはチョコレートケーキで、ラセットはショートケーキよね?」
「ママすごい!マルーンのどうしてわかったの!?」
「おれ、一言も言ってないよ!?」
ロイロとスカーレットは顔を見合わせる。
『だって、ラセットとマルーンのパパとママだから』
玄関からリビングへ向かう、四つの足音。
様々な人生が染まって、交わっては、広がっていく。
───その夜、とある酒場にて。
「聞いてくださいよ、マスタ〜!その子たちがすっごく可愛くて、ご両親も美男美女で。なおかつ家族仲が良くて、本当に素敵だったんですよぉ…!」
「…そうか」
酒場のマスターはシェイカーを巧みに振りながら、客であるカナリーの話を聞いていた。
すると、カナリーが大きな声で話していたからだろうか。聞こえていたのか、一人の男性客がカナリーに声をかけた。
「…あの、もしかしてそれって、緋色の髪の男の子と呂色の髪の女の子ですか?」
「そうです!そうです!もしかして、今日どこかでご覧になりました…?」
「ええ。ボク、時計屋を営んでいるんですが店の前の公園であの子たち、こそこそやってるから何をしてるのかと思って声をかけたら…ご両親を守るんだって言ってて」
そう、時計屋の若き店主であるウェルドもこの酒場に訪れていた。
「そうなんですよ〜!本当に可愛かったですよね!なんだかこっちまで幸せな気持ちになって…」
「わかります。なんかすごく微笑ましくて、あのご家族にめちゃくちゃ元気を貰っちゃいました。それに…」
『家族ほしいなって思いました』
二人の間に沈黙が落ちる。
そして、男女はお互いに顔を見合わせると、どこか恥ずかしそうに笑うのだ。
「こ、これも何かの縁ですし、今度一緒に…食事でもどうですか?」
「…ええ、喜んで」
マスターは思った。ワタシの前にも誰かと縁を結んでくれる、小さな可愛いキューピッドが現れないかな…と。
皆様、この度は『緋色の悪役令嬢は呂色の薔薇を染め上げる』シリーズをお読みくださり、誠にありがとうございました!
本作をもちまして、シリーズは完結という運びになりました。
ロイロとスカーレットを見守っていただき、本当にありがとうございました。皆様のおかげで二人の幸せな生活までを、描くことができました。
お恥ずかしい話、まだ1週間ほどしか経っていないのに感慨深くて、このお話を書き終わった後、脱力感というかロイロとスカーレットが幸せになってくれて本当に良かった、と恥ずかしながら不思議と涙が出てきました。連載のように沢山の量を書いているわけではないのにもかかわらず、大袈裟な話なのかもしれないのですが…(笑)
こうして、締め括ることができましたのも最後までお読みくださいました方々、評価をくださいました方々やブックマークをしてくださいました方々。大変励みになるうえに元気までいただけるご感想やコメントをくださった方々のおかげでございます。
本当に本当に心から感謝致しております。
まだまだ未熟者ではございますが、今後も様々な物語を投稿していけたらと考えておりますので、どうか温かく見守っていただけましたら幸いです。
お手数おかけ致しますが、ご感想や評価を受け付けておりますのでお手隙の際にでも、ぜひよろしくお願い致します。本当に励みになっております。
この度は素敵な一時をありがとうございました。
また、どこかでお会いできることを願いまして。
葉椀メギ