襲撃 5
◇ ◇ ◇
蒼貴の鳴き声を契機に、俺はチャリの爆走スピードを早めながらタイミングを見計らう。
立ちはだかる黒マスクどもは、みるみる近づいてくる俺が止まる気配がないのに動揺し、一文字に並んでいた隊列をU字型に変えた。
頬を通り過ぎる風の冷たさが、刹那のタイミングを睨む俺の頭をクリアにしてくれる。
後ろを一瞬振り返ると、同士打ちを恐れたのか銃を持っていた腕は引っ込んでいた。
十字路になっている狭い道に寄せ、みっちりと塞いでいる車と、U字から両脇に並ぶ陣形になった黒マスクたち。
緊張に一瞬唇を舐め、黒マスクの一番端に差し掛かった瞬間、後ろタイヤのみ思いっきりブレーキをかけた。
キキキィ――!
甲高い金属音と慣性の衝撃が身体を襲う。
後ろタイヤが勢いに振り回されそうになった瞬間、重心を一気に後ろ側に流し、前タイヤを浮かす。
「っし!」
次の瞬間には自転車から飛び降り、「うらぁ」と飛び上がった自転車を勢いのまま、持っていたサドルごと車の向こうに放り投げた。
俺も勢いのまま数歩走ってから、走り幅跳びの要領で力の限り地面を踏み込む。
「よっ!」
ガッと思いっきり邪魔だった車を踏みつけ、再度翔ぶ。
この間、正味5秒程度だろう。
チラリと横目で確認した黒マスクたちは、腰を落とし構えた姿勢のまま俺の姿を追っているだけだ。
視線が合った(と思った)黒マスクの一人に、ふふんとせせら笑ってやる。
視線を前に戻し、落ちてくる自転車の右ハンドルを引っ付かみ、同時に地面に降り立つ。
ガシャガチャーン!
「ぎゅぎゅ!
ぎゅ~」
蒼貴の潰れた悲鳴が聞こえた気がするが、後回しだ。
元々凄いスピードを出して通っていたため、鞄の持ち手を左ハンドルに引っかかっけていた。
段差で鞄がカゴから飛び出さないようにだ。
今回の乱暴にもしっかり自転車に引っかかったままだった。
良かった良かった。
「行くぞ」
そのままバランスを取ってチャリに乗り、立ち漕ぎでスピードを出し始めた頃。
「何をしている?!
追いかけろ!」
「お前邪魔だ!」
「お前こそどけ!」
と言う怒号が聞こえてきた。
「バーカ。
遅いよ」
呟いた俺は、進路を大通りに向ける。
大概ああいう輩は、人目につく所では襲ってこない。
悲しいことに、それが分かる程度には経験がある。
それに。
「車とか。
足つく証拠品、サンキュー」
「きゅきゅー?」
――主、どうしたのだ?
若干引き気味な蒼貴に、満天の笑みを浮かべてみせた。
「ここからが、俺の本領だぜ?」
嬉々とした声色で答えた俺は、学校に向けて、ペダルを踏み込んだ。