襲撃 2
3人称です。
「あら?」
学園祭のため校内にいた紗那は、猛烈なスピードで学校に走り込んできた貴生の気配に首を傾げた。
いつもより遅いが、まだ遅刻するような時間ではない。
疑問のまま気配を追うと、貴生は教室には向かわず屋上に突進して行ったようだ。
「……?」
普段のおちゃらけた雰囲気が一切ない貴生が気になり、紗那は屋上に向かうことにした。
屋上に向かうすがら、常日頃気配を消して生活をしているため、居場所がわからない暁にメールを入れる。
携帯の着信に一発では気付かない暁には、メールが良いのだ。とりあえず、日に何度か確認するように頼み込んである。
歩き出した紗那は、一旦人気のない場所に移動してから、改めて屋上に向かう。
姿を見咎められれば、引き止められるからだ。
屋上に近づくにつれ段々と貴生の気配が読みやすくなってきたが……、興奮している?
ケンカをしている時でも、これほど分かりやすい気配にはならない貴生だ。
何があったのか……、と紗那はため息をつきつつ、屋上の扉に手をかけた。
――キーンコーンカーンコーン
開いた扉から涼しい風が舞い込むと同時に、HR開始のチャイムが流れてきた。
「…………あら」
開けた途端、目の前に広がった光景に、一瞬絶句した紗那は小さな驚嘆の声を上げるしかなかった。
貴生は、紗那が来たことも、その他諸々の現象にも気付いてはないのだろう。
屋上の給水タンクにもたれ、愛用のノートパソコンを睨み付けながら指を動かしていた。
扉を閉め、扉に凭れ掛かった紗那は、さてどう声をかけようか迷う。
歩み寄ってこない紗那に、貴生の肩に乗っていた蒼貴が首を傾げてから翼を広げて見せた。
紗那は貴生が顔を上げる気配がないことを確認し、頷いて蒼貴を手招きする。
ちらりっと貴生の顔を見た竜は、器用に肩をすくめる仕草の後、翼を使い紗那の足元に降り立った。
「ききゅー。
きゅきゅ?」
――良き新しき日に祝福を。
いかがした、異界の姫よ?
小さな頭をもたげる蒼貴に、紗那も膝をつく。
「御君にも新しき日に祝福を。
それにしても、何があったのですか、これは?」
若干呆れを含ませた紗那の言葉に、翼を畳んだ蒼貴も長い首を傾げさせた。
「今までになく、貴生から純粋な魔力が垂れ流されてますよ?」
「ききゅぅ」
――うむ……。
困ったように尻尾を揺らす幼竜から、真剣な眼差しでパソコンを弄る貴生を眺めやる。
「……あれだけ集中してパソコンを操作しているのを見るのは初めてですが。
魔力も使って操作していますよね、アレ。
無意識でしょうけど」
「きゅぅ。
きゃう、きゅきゅきゅ、きゅーききゅうきゅ……」
――うむ。
どうやら私の主になることで、封印されていた魔力が押さえきれないほどに増大して、だな。
ちょっとうなだれ気味の蒼貴の言葉に、引っかかっる所があったが先を促す。
蒼貴は貴生をちらりっと見やり、気を向けられていないことを確認してから、鳴くのは止めた。
――そこでだな。
先ほど殺気を持つ者たちと遭遇したのだ。
「はあ?」
蒼貴の言葉に思わず声を上げてしまった紗那だった。