襲撃 1
「なーんか、母さん、変だったなー」
「きゅー?」
チャリを漕ぎながら呟くと、鞄の隙間から顔を覗かせた蒼貴が首を傾げた。
どうしたの? と言われた気がした俺は、ちらりと蒼貴をみて視線を正面に戻す。
「昨日から、時々不安そうな顔で俺を見ててなー。
……、別にバレてヤバいこと、そこまでやってない筈なんだけどな?」
「……、きゅきゅ。きゅきゅきゅ」
呆れた響きな鳴き声に、俺は小さく肩を竦めた。
「喧嘩くらいじゃ、拳骨で終了だしな、母さんの場合」
「……、きゅうぅ」
あっそ、ふーん、と言われた気持ちになり、俺は唇を尖らせた。
「そういう母さんなん……?」
ふと、後ろからゆっくりとしたスピードの車がいるに気づく。
自転車のスピードに合わせるように、一定のスピードを保っている。
それ即ち不審車だ。
経験上、警戒するに越したことはない。
言葉を切り、真剣な表情になったのに気づいたのだろう。
蒼貴も首を巡らしている。
それは唐突に始まった。
パシュパシュ。
空気の抜ける小さな音とともに、耳元に風圧を感じた。
「ちっ!」
舌打ちをし漕ぐスピードを上げつつ振り返ると、車の窓から腕が伸びどうみても銃の構えを取っている。
「くそ、銃刀法違反だろ、あからさまに!」
自転車をスゴいスピードで漕ぐ俺は、チャリを使う時は安全のため裏道を使って通学している。
それが幸なのか不幸なのか。
取りあえず、他人を巻き込む心配だけはない。
パシュパシュ!
間抜けな音とともに、何かが通り過ぎている。
「くそ!」
小刻みにハンドルを揺らし進路を変えていたが、遠くで一台の自動車が横付けになり、細道を塞いでいるのが見えてきた。
「おい? ……おいおいおい!」
車の前にはどうみても、一般公道を歩けなそうな黒尽くめにマスクまでつけ、銀色の棒を持って男たちが群がっていた。
「こら、おい!
刀かよ、ありゃ?
警察は何やってんだよ、一般公道での怪しいヤツ、逮捕しなくてどうする!?」
どんどん近づく黒尽くめのマスク男たち。
後ろからは、道を塞いで進んでくる銃を打ってくる奴ら。
風を切りつつ、策を練る。
黒マスクたちの後ろで横付けになっている車は、簡単に動けないだろう。
……、緊急事態だ。
やるしかない。
「蒼貴。
鞄が吹っ飛ばないこと、願っとけ」
「きゅ!」
俺にも任せとけ! と返事をもらった気がする。
頼もしいかわからない言葉への愉悦とともに、ふつふつとたぎる心の高揚を覚え。
にやり、と。
俺は唇を歪ませた。