星空の下で 彼らの朝
唐突だが。
我が家には、超万能セキュリティが入っているらしい。
S○COMか何かか?
そんな仕掛け、家の中でみたことがないが。
母さん曰く、
「侵入者、不審者あれば即座にアラーム警報が鳴るようになってて、30秒以内には必要か否か判断し駆けつけられるシステム」を組んでいる、とのこと。
つか、物理的に無理だろ、30秒以内に駆けつけるって。
つか我が家にそんな壮大なシステム、いらんだろうに。
それよりも、紗那の両親が留守になるからって、俺ん家に預けるのを先に止めれ、と物申したい。
一応年頃の男女だぞ?
一年に二、三回の頻度で預けていくな。
家は俺一人であることの方が多いんだ。
俺が手を出すことはあり得んが、世間体が悪い。
つか、大人ならその辺配慮しろ。
とまあ、朝の食事を準備している時、紗那に訴えてみた訳だ。紗那は苦笑しつつ、小声(紗那と俺の両親たちは、俺たちと入れ替わりに寝に行ったばかりだから)で答えた。
「まあ、30秒というのは微妙なラインね」
「だろ? つかそんな厳重にこのうちを警備する必要性がわからん」
梨の皮を剥きつつ、改めて台所を見渡す。
……特に監視モニターもない。
「ちょっと貴生と30秒の意味が違うかも。
来ようと思ったら、30秒も要らないでしょ。
逆に判断材料が幾つも与えられるよう、多くの結か……、じゃなくて、セキュリティシステムを常時展開してあるわよ?」
使い方、私、教えてもらったわ、と言う紗那に、顔をしかめる。
……まったく。
絶対「紗那ちゃんが危険に晒されてた時に!
貴生君は自分で何とか出来る。
むしろなんとかしなさい」とか言ってるんだろ。
まあいいけど。
「貴生、私、先に行くわね」
「あ? 今日はチャリあるぞ。
後ろに乗れば?」
道理でリビングにカバンがある訳だ。
紗那製卵焼きを食べながら、俺は首を傾げた。
「うーん、ほら。
昨日突然の帰宅命令出たじゃない?
クラスの出し物、どうなったかなって?」
「ふーん?」
紗那のクラスは劇だったと思ったが。
「貴生はゆっくりコーヒーを飲んでから登校して?
親たちには、人数分のお味噌汁作ったから」
ああ、スープがあるのに味噌汁作ってたのは、あのダメ親たち用にか。
「まあ、頑張れ。
てか、紗那、お前、何役するんだ?」
紗那の味噌汁を摘まもうと立ち上がり、ふと振り返る。
食べ終わった食器を重ねていた紗那も首を傾げた。
「あら?
私、言わなかった?
裏方美術よ」
重ねた食器を持ってきたのを奪い、シンクに置いた俺はため息をついた。
奪われた食器の代わりに、俺に味噌汁をよそってくれている紗那は苦笑した。
「はい。
もしかして、貴生の方に行っちゃった?」
「一度だけな」
妙に切羽詰まった奴等に囲まれた事があった。
まあ、よくある事だ、と流していたが。
モテすぎるのは大変だなぁ、と。
だが良く思い出すと、紗那に頼みたい云々とか言ってた気が。
「だって、お姫様をして欲しい! とか言うんですもの」
「あー、お前、それ系キライだもんな」
「こんな所でもやりたくないもの」
紗那の言い回しに、味噌汁をすすりながら首を傾げた。
「じゃあ先に行くわね?
コーヒーブレイク、付き合えなくてゴメン」
「気にするな。
行ってこい」
「ふふ。
行ってきます」
必ず「行ってきます」「行ってらっしゃい」の挨拶を交わしたがる紗那に、ひらりと手を振り送り出す。
カシャンと玄関の扉が閉まる音を聞きながら、ヤカンに火をかけていると。
「あんた、行かなくて良いの?」
真後ろから声をかけられ、びくりと肩がはね上がった。
振り向くと、母さんが眉を寄せて見上げてきていた。
怖! つか気配なさすぎだろ!
「サボり?」
「ちげーよ。
紗那は突然呼び出されて放り出した仕事しに、早めに行ったんだよ」
「仕事?」
「ああ、今文化祭の準備してるからな」
「あら~。
ふふ。学生ね。青春ね!」
「……」
……おばさん臭いって言ったら、殺されるだろうなぁ。
「つか、母さん?」
「なに?
あら、美味しそうなお味噌汁!」
コーヒー豆を挽きながら、味噌汁をよそおうとする母さんから器を奪う。
「一度寝てから食え。
紗那が作った二日酔い用だ。
つか、母さん。
まだ寝ないのか?」
器を奪われ口を尖らせた母さんは、腕を組みぷいっとソッポを向いた。
「お酒ごときに、お母さんが呑まれるワケないでしょ。
それに……」
湯を淹れ拡がったコーヒーの匂いに、うっとりとしていたが、途切れた言葉に首を傾げ振り返る。
「それに?」
言葉を反復するが、母さんは困った顔をするだけだった。
「……?」
登校時間も迫ってきているので、さっさとコーヒーを立ったまま飲み干し、カップを洗い終わっても、じっと俺を眺めているだけだ。
「どうせ俺たちが引き上げても飲み続けてたんだろ? 寝れば?」
蒼貴用の梨を乗せた皿を抱え、2階の部屋に戻ろうと背を向けた瞬間。
「ねえ、貴生君。
お母さんに言うこと、ない?」
珍しく真面目な声色での質問に、俺は振り返った。
声と同じく、至極真顔の母さんに俺は首を傾げた。
……、どうしたんだろう?
「何を?」
じっと見つめられたが、心当たりはない。
困惑していると、母さんはふっとため息をついた。
「いいわ。
行ってらっしゃい。
気をつけてね?」
「はいはい」
いつもの陽気な表情に戻った母さんに、もう一度首を傾げたが登校時間が迫っていることもあり、俺は自室に足を向けた。