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紗那Side:エピソード3

郊外にある私たちの高校は、とてもいい場所に建っている。

自然が多く近くには神社もありに満ち溢れているため、紗那と暁はこの高校を選んだ。


ちなみに貴生も一緒なのは、偶然だ。

自転車で通える範囲だったから選んだらしい。

貴生らしい。



『良い場所だな』


校舎の裏に広がる森の一角で、涼しやかな風が過ぎさった。

人気がない場所に座った二人に向け、竜、蒼貴、は深い色を宿らせた両目を細め呟く。


「ここは、格別良い風が吹く場所なのです」


漆黒の髪を風に舞わせ、紗那は晴れ渡った天空を仰ぐ。


『ふむ。眷属よ。

そなたが見つけたのか?』


翼を緩やかに震わせ、蒼貴も蒼天を見上げた。

3人で正三角形を描いて座った暁は、無表情に答える。


「ここは、な」


『そうか』


頷き、ゆったりと双眸を閉じた蒼貴は、風に身を任せ動きを止めた。


その場は、自然が奏でる音、紗那が摘まんでいる食事の音だけが、しばらくの間場を支配する。


「……と言うか、暁。

食べないの?」


五分もしないうちにお弁当を空にした紗那は、持って来た水筒からお茶を入れ寛ぐ。


『眷属よ。

我を気にせずとも良いぞ。我は食物を摂取する種族ではない』


瞳を閉じたまま心に言葉を響かせる竜に、暁は小さなため息をついた。


「……気分じゃない。

それより、昼休み、終わるぞ」



ここに3人だけで集まった理由。それを暁は視線で促した。

出来るだけ突っ込む時間を先伸ばしにしたかった紗那は、しぶしぶ正面を向き姿勢を正した。


「それでは。

尊く気高き異世界のお方。

私どもの事情をお話致しましょうか。もしくは、御方様の話をお伺いしても?」


蒼貴は丁重な口調で話しはじめた紗那に、理知的な瞳を向けた。


『私のことは主から頂いた名で呼ぶのを許そう、礼を知る者よ。

我が眷属よ、そなたも構わぬぞ』


尻尾をゆったり振っているが手の平サイズの小さな竜だが、この場所についてからは凄まじい威圧感がある。


『そなた、竜に詳しいようだな。

この世界の人の気配とも、微妙に違いがある。

異界の者か?』


見つめられ、小さくため息をついた紗那は、暁に目をやった。


視線だけで促された紗那は、竜に目線を戻す。


「では。

私どもから、この世界のことを簡単にご説明致します」

ちらっと時間を確認して、紗那はどこから説明すべきかと考え、今朝の記憶を思い出した。




☆☆☆☆☆☆




「おはよう」


家の門を出ると、ちょうど向こうから暁が歩いてきていた。


紗那の挨拶に暁は手を上げ答え、そのまま貴生の門前で立ち止まった。


自宅の門を閉め、貴生の家のガレージを確認し、貴生の両親が帰っていないことを確信してから、紗那も貴生の家の門前に移動する。


横に移動した紗那を見下ろし、暁はぼそりと礼を口にした。

ふと、小さく笑った紗那は、暁を見上げる。


「私の両親もだけど、貴生の両親はね。

暁が遭うのはマズイし」

「一度見てみたいとは思うがな」


三メートルはある貴生宅の門の柱に背を預け、暁は貴生の家の庭を見渡す。

うっそうとした緑に囲まれた貴生の家は、結構な豪邸だ。

それも外敵用に最強布陣を引いている。

パワーバランスを巧妙に取り、竜脈を使って天然結界を組み、且つ独自に呪を編み込んだ邸宅なのだ。


「まあ、あの貴生の親よ。こんな家を建てられるくらいには。

それに、逢うのは逢ってくれるだろうけど……。

一応異界の姫と勇者である私の両親を、この世界に適応させられる人たちよ。

半端ないわ。

暁、貴方、一目で人間じゃあないってバレちゃうわよ」


「キオの親なのに、か」


「だから、よ」


ひょいっと空を見上げ、紗那は大きく息を吸い込む。


「貴生の道場、行ったことあるでしょ?」


「……、ああ、一度貴生が妙に暗かったあの時のか」


「ええ。……、そういえばあの件、貴生の口を割ってなかったわね」


むっと顔を顰めた紗那に、暁はため息をつく。


「紗那の結界透過札を持たなければ、入れやしないな、あそこは」


「入れることは入れるわ、暁でも。

だたし、本性に強制変化させられると思うけど」


今度は暁が顔を顰める。


「……、ありがたくないな」


「ええ、まったく。

あそこは、日本で最大、最高の術者育英機関の一部ですもの。警備は半端ないわ。

むしろ、世界でもトップを争うセキュリティを誇る道場に忍び込める札を作れる、貴生のおじ様も怖いけど」


「そうか」


「あんな特殊な道場で、すっごくファンタジーな修行をしているのに、武道だと信じて気づかない貴生の鈍さも変だけど。

一応最高峰の道場で、師範の資格を取ってしまえる貴生を生んだ人たちよ。

桜花おば様は、世界でも5本の指に入る能力者だし。貴流おじ様は世界にほとんど存在しない筈の凄腕の魔術士。

……私も時折怖くなるわ。傍にいるだけで、力が伝わって」


門越しに邸宅を見上げた紗那の頭を、暁がくしゃり、と撫でる。


「悪かった。可能な限り、会わないようにする」

「そうして。もし会ったなら、私なんかでは助けられないの。

……ゴメンなさい」

「気にするな。オレの問題だ」


重苦しい沈黙が落ちた時、ガチャリと玄関の扉が開く音がした。

思わず同時に振り返り……、がっくりと肩を落とすしかなかった。


ひらりと視線の先を過ぎった存在。

昨日とは違い、『存在』を確立してしまった異世界の生き物が……。



「「…………」」



『名付け』を行ってしまったのは、確実だった。



紗那は思わず額を押さえたくなったが。

己と同時に思わず出た暁の呆れたため息を聞いて、はっと我に返る。


呆然としていた貴生に、とりあえず自転車を取りにやらせ。


「どうしたものかしら……?」


もう、ため息をつくしかない状況だ。

あんなに困っていたので、貴生が直ぐに『名付け』を行うくらい、あの竜を受け入れるとは思っていなかったのだ。


「どうやって、あの現実外の生き物を受け入れたのやら」

「まったくね。もう……!」

「ものすごい力のある種族だな」

「知っている気配のどれとも違うから断言できないけど。

よく似た力の気配なら、母様の知識オーブにあったわ。

……、神に近い力を持つ種族だと」

「…………」

「昨日、そんな力を放出していたし。

生まれて直ぐに、力の制御を可能にしてしまっていたわ」


貴生が戻ってくるまでには今後の方針を定めたかったが。


「キオから状況を確認してからの方が良いだろう。

竜はおしなべて、誇り高い生き物だからな。

存在を確立した今、自己をどれほど持っているかわからん。

下手な対応をすべきではない」


暁の言葉に頷き、紗那は小さく首をかしげた。


「それは、暁の言葉? 種族の言葉?」

「……、種族だ」


嫌そうに竜の血を肯定した暁は、眉をしかめた。



確かこのやり取りの後、学校に向かう道で

『そなたらは、何者だ?』

という蒼貴からの心話を受けたのだ。


……どうやら貴生には伝えなかったようだが。


「お話は全て後程。貴生には何もおっしゃらないでください」

慌てて口止めをし、暁を仰ぐと小さく頷いたので、そのまま言葉を伝える。

「この世界の理や事情は、必ず御方様に説明させていただきますので」


不審そうにしていた蒼貴だが、暁も頷くのを見て、納得したようだった。

『眷属よ。

そなたもそう言うなら、仕方があるまい。

我の方が、訪問者であるが故な』




☆☆☆☆☆☆



そうして、今の時間があるのだが。


何から話したものか。


『ふむ。

まず名を示してはくれぬか。

我のみが名を許すのは、いささか良い気持ちではないのだ』


眉を寄せて考え込んでいると、再び心に声が響いた。

慌てて見やると、蒼貴が深い意味を宿した双眸で紗那と暁をじっと見つめていた。


「失礼いたしました。

私は、紗那・リーシャヘルド・天城と申します。

世界、ガルフェクシェーンの前統治者、アルキナと、世界の崩壊を救ったケイトの娘でございます」


ガルフェクシェーンでの異種族への敬意を示す礼にて、紗那は名乗った。


「オレは、この世界に唯一現存する竜種の最後の生き残りだ。

とは言え、もはや種として純粋ではなくなっているが。

今は「暁」と名乗っている。種族名やら真名は勘弁してくれ。

そういう種族だ」


暁なりの名乗りに、蒼貴が瞬きを返す。


『双方、礼を言う。

名乗りを強制して済まなかったな、異界の姫よ。そなたの世界は伝え聞いておるだけだが。

そなたに良き風が吹くことを願おう。

眷属よ。

そなた、存分力の強い眷属だと思うておったが。

純粋ではないのか?』


「色々事情がある」


肩を竦め、それ以上を口にしない暁を見て、蒼貴は目を細めた。


『我は済まぬことを聞いたようだ』


「構わない。オレが人に擬態していることを、口外しないでいただけるなら」


『承知した。

主殿にも、聞かれない限り黙っておこう』


「ありがたく。

……、一応この世界の同種族として忠告を。

蒼貴もこの世界で姿を現すのには、気をつけられた方が良い。

この世界には、今、竜族は俺一人。そうして、それが理由で、俺は追われている」


『……』


「子竜の時、捕獲されてしまった。

あまり言いたくはない、まあ色々な事を多々受けてしまったため、俺には次元や世界を翔る力はなくなった。

この世界は他の世界に対して、とても閉鎖的だ。

その代わり、実力者は限りなく磨き上げられている。……、竜族であっても、油断しない方が良い」


あまり長文を話さない暁だが、遠い所に視線をやりながら話す内容は、紗那も聞いたことがないものだった。

だが、追われている原因をおぼろげに悟った。



前に、逃げ出した、と聞いたから。



『……、有難き忠告、受け取ろうぞ、暁』


「ああ」


二人(竜?)のやり取りが終わるのを待って、紗那は本来の目的に話題を戻す。


「蒼貴様。

暁の事情にも絡むのですが。

……、そういえば蒼貴様?

世界の知識をお持ちということは、力はどこまで?」


ふと、蒼貴が異世界の名を知っていたことに気付き、紗那は首を傾げた。


『本来なら、力も己の役割も、もちろん知識もこのような幼竜の頃にはない。我らが時空を旅する種族であっても。

今の状況はかなり特殊なのだ、私にとっても、な』


真摯な瞳と態度で、これ以上の話を態度で拒否された紗那は、うなずいて話を戻す。


「この世界は、貴方様を含む幻獣、魔物、魔術、魔法の類が存在しないことになっています、表向きは。

そうして、貴生はそれらの存在を知りません」



もはや昼休みは過ぎたが、これは外せない。

できるだけ貴生には、ゆっくりとこちらの世界を知らせたい、という意向を汲んでもらうべく言葉を尽くす。

暁にも足らない部分を補助してもらい、納得してもらったが。


『主殿は、そんな特殊な立場におってなお、普通の人間として生きておるのか……』


呆れたため息をつく蒼貴に、紗那と暁は苦笑うしかない。


「本当に不思議なんですけど」

「あいつらしいと言えば、あいつらしいが」


「「それにしても、ね(な)」」


「どうしてか、蒼貴様の言葉、鳴き声で理解しているみたいだし。暁は鳴き声で言葉、わかるの?」


「わかるが。貴生はどうも蒼貴の語調と違う言葉口調で理解しているようだがな」



二人の言葉に、蒼貴は苦笑しながら尻尾を振った。


『あい判った。

しばらくは、主殿に心話はしまい。

ご両親にもばれないよう、姿を隠そうぞ。

我も状況を把握すべきだと思う。主殿の不利になるようなことは、できるだけ避けなければならぬしの』


「「よろしくお願いします」」


頭を下げた二人に、蒼貴は双眸をゆるやかに細めた。


『主殿は、得がたい友を持っているようで、我も嬉しいぞ』







それにしても……。

もうすぐ放課後になってしまう時間であることに、紗那は違う意味で頭が痛くなるのであった。

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