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青空

鞄の隙間から顔だけを出し、蒼貴は二人を見上げていた。


「きゅ! きゅきゅ」


厳しい声色で鳴いた蒼貴は、口をつぐんだ後、真摯に紗那と暁を見つめた。


なにやら「黙れ」的なことを言った気がする。


二人も真剣な顔をして、小さな竜を凝視している。



……つか、ものすごく目撃されているよな。

なんかね、もう。

誤魔化せる範囲ではないな!

飛んでたし、鳴いたし、なんか瞳で語り合ってるみたいだし。

これで「見間違い」と言われて信じるヤツはいないな!


つか普段通り過ぎるだろ、暁……。

あり得ないこと、何事もないように受け入れやがって!


……てか、なんかハブられてる感じがする。

今更鞄に蒼貴を叩き込むことも出来ず、俺は空を仰いだ。

あーいい天気だなぁ……?



「つか、学校!」


急いで時計を見ると、最早ホームルームにも間に合わない時間だ。


「オイコラ! 呑気に立ち止まってる場合じゃねえだろ!」


走りはじめた俺は、のんびり歩くだけの二人を振り返って怒鳴った。


「きゅ~」


後でな、と言わんばかりに鳴いた蒼貴は、大人しく鞄の中に姿を隠した。


「今更走るだけ無駄だ。

第一、今日の1限は自習だ」


「私はきちんと「遅れます」って学校に連絡したもの」


平然と宣う二人を睨み付けた俺を、責める人間はいないだろう。


何だよ、その遅れても大丈夫的な、前もっての手配は?!


ムカついて、わざと離れて歩いていると、小さな二人の会話が聞こえた。


「どうする?」


「……気配は?」


「見事になし」


「僕にも感じない。

暫くは構わんだろう」


「でも、共に在れるのかしら、この世界で。


ってあら?

貴生? 蒼貴様の食べる物、知ってるの?」


意味不明な会話を交わしていたが、唐突に話かけてきた。


パタパタと走り寄ってきてじっと、昨日とは違う黒い瞳で覗き込まれた。


「ちけーよ。

……昨日、梨食ってた。


レモンも気にしてたし、柑橘類か果物系を食うだろ。

むしろ肉と野菜には興味ないみたいだしな」


「ふ~ん」訝しげな声で頷き、紗那は後ろの暁を見やった。


「貴生の傍にいれば良いのだろう。

果物は嗜好品だろうな」


「きゅ」


鞄の中から、同意するような鳴き声がした。


「お前、聞いてるのかよ」


鞄を揺らすと、「きゅきゅ~(当たり前だよ~)」とビブラートのかかった鳴き声がした。


それはそうと、なんで蒼貴の鳴き声の意味が分かるのだろうか。


「成る程ねぇ」


納得したように頷き、紗那は空を見上げた。


「いいの?」

「……潮時なのだろう」


深刻な表情の二人に、俺は眉をひそめた。

暁の覚悟を決めたような雰囲気も引っかかった。


「おい?」


折しも次の角を曲がれば、人通りが多い駅前に出てしまう。

そうなると誰に聴かれるかわからない。

ここで問いつめる時間もなく、不承不承俺は口を閉じることにする。



だが。


「おい、暁」


「なんだ」


信号が変わりかけた道路を走って渡り、駅構内に入った後。

ポケットから定期を取り出しながら答えた暁の視線を捕まえてから、目に力を入れた。


「助けてやるさ」


「あ?」


「何からでもな」


友達だから、とかは言わない。

いや、そんな恥ずかしいこと言えるヤツの気が知れない。


だが。


親友とも言えるヤツを見捨てられるほど、俺は大人じゃない。


守るとかじゃない。

暁も男だ。

自分で闘うだろう。


しかし、横で共闘してやるくらいなら出来る。



恥ずかしさを押し退けさせるほど、さっきの表情は悲壮だったのだ。


「貴生さぁ」


後ろから呆れた声がした。


「こんな公共の場の中心で、良くそんな事言えるわね」


貴生が回りを見渡すと、改札前で立ち止まっていた二人は、周りから注目の的だった。


「うわ!」


その視線の重さに、俺は思わず逃走を図る。



「キオ」


ホームに足を向けた俺に簡単に追いつくと(足の長さは不公平だ)、暁はぐしゃぐしゃと頭を撫でてきた。


「頭撫でるな、ムカつく」


「ありがとな」


滅多に笑わない暁が笑みを浮かべたのを見て、俺は口を閉じた。

紛れもない喜びを表していたからだ。


「まったく。

そんなトコが貴生なのよね」


「お前もだろう、リーシャヘルド」


「イヤなこと、言うわね……」



「お前のことも、だぞ」


恥ずかしついでに、言いたいことを全て言ってしまうことにした。


前々から時が過ぎるごとに、紗那が時折暗い表情をしていることも気になっていた。


いつか軽く伝えておこう、と思っていたから丁度良い。


そんな軽い気持ちで言うと。


一瞬泣きそうな表情をし、哀しみと喜びを同時に浮かべた。


「ほんっとに貴生は……」


小さな笑みを見せ、横に寄り添ってきた。


そのまま口を閉じた紗那を見下ろすと、左側に暁が立った。


「ああ」

様々な感情の色を持った同意をした暁は、ホームから見える青空を仰ぐ。




口を開くのがもったいない気がして、二人に意味を問うのは止めた。


いつか話してくれるだろう。



そう思い、俺も見上げた。



吸い込まれそうな青空を。







それが平穏な日々の、最後に見た青空だったと。




後から何度も思い出すことも知らずに。

ようやく誕生編終了です。


思っていた展開ではないので戸惑ってますが。


蒼貴はもっと活躍予定です。

次回から事件が起こるので、そこで活躍して貰います。




ポイント入れて下さった、ありがとうございました(^O^)

作家さんがおっしゃる執筆活力源が、皆様からの反応だということを、しみじみ実感しております。


思っていたよりも長編になりそうですが、引き続き頑張りますので、宜しくお願いします~!

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