登校
おおう……。
「「「………」」」
言葉がみつからず、思わず沈黙してしまう。
目があった二人、紗那と暁、もこちらを凝視して黙り込んでいる。
そりゃそうか!
竜が飛んでりゃあ誰でもビビるわな?!
……つか。どうしよう……?
紗那は昨日蒼貴を見ているから良い。
いや、良いかどうかはわからないが、仕方がない。
だが、暁だ。
なぜ暁がいる!?
横たわる沈黙に、肩に降りた蒼貴までもが口を閉じている。
「「……はぁ」」
唐突に二人は顔を見合わせ、ため息をつく。
……なんだか呆れたような重いため息だ。
「……おはよ、貴生」
「お早う、キオ」
ナチュラルにスルーされ、とりあえず挨拶に手を上げ、扉に鍵をかける。
さて、どうするか?
ものすごく見られただろう。蒼貴が飛んで肩に止まったのを。
「自転車、取ってきたら?」
普段通りの口調の紗那に、とりあえず頷き敵前逃亡をすることにした。
蒼貴をひっ掴み、早足で庭を横切っていた俺だが、はたと思い出す。
昨日は暁に首根っこ捕まれ、ケンカに巻き込まれたお陰で、歩いて帰ってきたのだ。
「ったく。学校かよ」
思わず毒づき、ため息をついた。
仕方がない。今日は電車で向かうか……。
「きゅ?」
「きゅ? じゃねえよ……。暁に見られただろ、お前」
小首を傾げ(俺が掴んだままだから、頭しか見えないが)、目を瞬く。
手に当たる感じから、手の中で尻尾と翼をばたつかせているのだろう。
「とりあえず動くなよ」
こんなファンタジーなイキモノ、家に置いてくのも不安だ。
ふらふら飛んでいるのを、帰ってきた父さんや母さんが見たら。
「……面白がるだけか?」
あれ?
笑って可愛がるだろう姿が即座に浮かぶ。
常識的におかしい存在であることは、綺麗にスルーされるだろう。
「………」
蒼貴を鞄に押し込みながら、徒労感に襲われた。
「……我が親ながら」
首を振って、今は忘れることにする。
それよりも、暁になんて説明をしたものだろうか……?
「貴生~。遅刻するよ~」
手招きする紗那へ、顔をしかめてから門を出た。
しかし、二人して深刻な表情だったが。
コソコソ話をしていたようだし。
仲が良いよな、コイツらは。
「あれ? 自転車は?」
「昨日、暁のケンカに巻き込まれたから、学校に置きっぱなしだ」
ぶすっと答えると、紗那は呆れた眼差しを投げ寄越してきた。
「つか、なんでいるんだよ?
お前ら、やっぱ付き合ってるんだろ」
「はぁ?」
確信を持って聞いたが、返ってきたのは思いっきり怪訝そうな表情と声だった。
駅に向かって歩き出した俺たちの会話を黙って聞いていた暁は、自分の関係が疑われたことすら想定していない顔をしている。
「バッカじゃないの? あり得ないから、それ。
そんなことよりも、貴生」
突如真面目な声色と表情になった紗那に、俺は姿勢を正す。
自然と立ち止まった俺たちは向かい合う。
「貴生。
アナタ、あの竜に名付けたの?」
あまり聞かないくらいの深刻な口調と、内容の軽さに俺は眉をひそめる。
「名付け?」
「名前をつけたか、ってことだな」
暁の援護に、紗那の言っていることは分かったが、意味がわからない。
「蒼貴か?」
暁もいるので、付けた固有名詞で答えると。
一瞬息を詰めた二人は、同時に二人して額を押さえため息をついた。
……なんか、むかつく。
「まったく貴生ってば……」
「まあ、想定外だったな。
もう少し躊躇うと思っていたから」
二人は訳の分からん会話を交わし、意思を通じさせている。
つか。
「おい、暁」
「なんだ」
「お前……」
……竜を見たか、とは俺は言えない!
つかなんで突っ込まないんだ?!
いや、突っ込まれると困るが!
呼びかけておいて言葉を濁す俺を見下ろしてから(こんなトコもむかつく!)、暁は紗那とアイコンタクトを交わした。
「キオ」
「んだよ」
「竜なんて、どうやって信じたんだ」
「……」
直球だな、おい!
「それは普通、俺のセリフだろ。
つか、なんで慌てないんだ、暁?」
動揺の欠片さえ見えない。
普通、現実にいるイキモノと見間違ったと思うトコだろ!
「僕のことはどうでもいい」
だが、さらっと流された。
クソ~、こんなトーンの低い声の時、暁に何を言っても無駄だ。
「貴生、昨日はあんなに頑なだったじゃない」
一晩で認められるなんて、と呟かれ、こめかみが引きつる。
「お前、昨日はさっさと見捨てやがったクセに……」
「まあそんなことはどうでもいいわ。
それよりも、どうして名付けをするくらい現実的処理をしたの」
言い回しが何かムカついたが、二人から視線を反らし答える。
「言いたくない」
「キオ」
「貴生」
「言え」
「言いなさい」
二人から大層ドスの聞いた声で詰め寄られたが、視線は明後日の方向から反らさなかった。
あんな暗黒な記憶、二人に伝えたくない。
「き!」
唐突に鞄から、鋭い鳴き声が聞こえた。
三人とも。
遅刻するよ~
ちなみに確信犯は暁と紗那。
貴生はスッゴい低血圧なんで、朝のうちは状態に対応するのに精一杯。
遅刻なんて、むしろ時間の経過などは忘れて去っています。
長引いて申し訳ないです。
あと少しで、誕生編(今名付けた)を終わらせ、暁編か紗那編、もしくは全然違うストーリーで父母の正体バレり編に行く予定です。
頑張れ、自分!
そして読んで下さった方々、ポイントを入れて下さった方々!
感謝で胸一杯です。
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亀より遅い歩みですが、頑張りますので宜しくお願い致します(;_;)/~~~