朝の一時
ジリジリジリジリ!
「きゅきゅ!? きゅきゅきゅ!」
バシィ!
目覚ましの音と共に、鳴き声が聞こえた。
と思った瞬間に、顔面に硬いものが降ってきた。
「……」
痛い。
しがみついている蒼貴を引き剥がす。
ヒリヒリする鼻を撫でながら、とりあえず騒音の元、目覚ましを止めた。
「ふぁ~」
思いっきり伸びをし、掴んだままの蒼貴をぽいっと放る。
「うう……」
何時もなら、何度か目覚ましを鳴らしてから起きるのだが。
べちゃりと転がっている原因を一睨みしてから、ベッドを降りる。
「お前のせいで目が覚めただろ」
無防備な状態での衝撃で、一気に神経を目覚めさせられた。
自分が警戒を解いた状態で刺激を受けたことも若干ショックでもあり、寝直す気にならない。
しぶしぶ制服に着替え、部屋の扉に手をかけた。
「きゅ? きゅきゅ~!」
いつの間にか起き上がり、尻尾を振りつつ着替えを見つめていた蒼貴は、部屋を出て行こうとする俺に
「置いてくな」と言わんばかりの鳴き声を上げ、小さな翼を広げた。
「お?」
昨日とは違い、滑らかな滑空で俺の左肩に乗った蒼貴に、ちょっと感心した。
「お前、いつの間にそんな上手く飛べるようになったんだ?」
重さを感じなかったので、肩に載せてたまま階下に向かう。
まあ両手は鞄と学ランで塞がっていたのも理由の一つだ。
「きゅ!」
妙に誇らしげな鳴き声を聞き流し、テーブルに荷物を適当に置く。
朝は昨日作って置いたものを温めるだけ。
それより重大なのは、コーヒー豆を挽き朝の一杯を煎れることだ。
例え遅刻してでも、これは必ず飲む。
俺の朝の儀式だ。
これまた昨日準備しておいた梨を切った実を、蒼貴に与えながらコーヒーを啜る。
「うん、今日も美味い」
「きゅ!」
同感だ!と言わんばかりの鳴き声に、ふと視線をやる。
「綺麗に食えるようになってるな」
昨日はベタベタになりながら食っていたが、今日はどうやってか溢さず食べている。
それに妙に鳴き声の意味がわかる気が……?
「ま、いっか」
朝には考えない。
朝の俺は、基本役立たずだ。
全てを流し、黙々と食い終えた。
「あ、やべ。
昨日課題途中のままだ」
玄関に至ってから思い出すが、もう今更だ。
ま、いっか、と玄関の扉を開けた瞬間、
「きゅ!」
と肩に蒼貴が降りたのと。
玄関前で待っていた二人と目があったのは。
同時だった。