紗那Side:暁
パタリと貴生家の玄関を閉じて、ふと空を仰ぐ。
もう明るい星は空で存在を主張していた。
カタンと扉に頭を預け、ため息を覚えずついてしまった。
「……ちょっと、短気、だったかな?」
一応先程の気配が何かは把握した。
しかし、キオの中で私の存在が軽いモノだと確認できてしまって……、そのまま冷静に問題対処が出来ないと思ったのだ。
心が重くなっている。
「あー、もう!」
普通の少女のような心の動きに、自嘲するしかない。
腕を振り上げ叫び、勢いを付けて扉から離れた。
これからあの竜に関して、どうするか考えなければならない。
ファンタジーな事柄に、キオは当てにならない。
ただ呆れるしかない手腕で、無理矢理解決させてしまうだけだ。
過去にどれだけファンタジーな事件に遇っても、それはもう、見事な手法で現実的に解決していた。
……後始末が大変だが。
余りに見事なので、私も暁も組織や親を誤魔化してしまうのだ。
大事に関わりたくない私達には都合が良い、というのもある。
それに……、私も暁も。
貴生には、出来る限りの期間で良いから。
『普通』であって欲しい。
私達には、望めないから……。
「って。なんか暗いかな」
それにしても、母さまをどうやって誤魔化そう……?
気を取り直し、家の玄関に入った。
「ただいま〜」
「お帰りなさい、紗那ちゃん」
『伝達』の魔導で声が届いた。
……わざわざ魔導を使わなくても。
キッチンを覗くと、鼻唄を唄いながら野菜を刻む後ろ姿。
「ケイトさんから電話があったわ。
紗那ちゃんとお話した後にくれたのよ〜。
心配してくれたのね」
ハートマークを付けて話す母さまに、最早報告は不要と判断する。
「……着替えてくるね」
言い訳を考えていた時間、無駄だった訳ですか?
思わず脱力してしまう。
よろり、と部屋に戻り着替えようとした時。
ピリリ!
暁用の着信が鳴った。
「はい」
「今いいか?」
直に用件を切り出そうとする暁に、ため息をついてからベッドに腰掛けた。
「なに?」
問いかけたが、珍しく暁が言葉を躊躇った。
「? 今家なの?」
後ろで物音がしない。
フラついている以外は、家に戻り家事を手伝うことしかしてないのだ、暁は。
「ああ。……、貴生に会ったか?」
その一言で、暁が竜の誕生の気配に気付いたことを知る。
「さっきまでね」
残念ながら、こういう件は暁とはツーカーだ。
複雑だが、多くの言葉はいらない。
「そうか。
じゃあアイツが、突然竜の食い物について聞いてきたことは?」
「……はぁ」
思わずため息をつく。
そう来るか。
「気配、分かったでしょ」
「今はしないがな」
「消してたもの。
因果関係はわからないけど、貴生、竜の卵拾って孵しちゃったから」
簡潔に伝えると、向こうも疲れたような重いため息をついた。
「よりによって、か」
「よりによって、ね」
「「はぁ」」
思わず同時にため息をついてしまう。
「……それで? なんて答えたの?」
確か龍の血も混じっている暁に、そう言う意味を込めて聞く。
「ゲームでは、として適当に一般的な事ならな。この世界のものならイキモノの法則が違う。
食い物は食わん」
淡々と、もう純血は存在しない、と加えられた。
「そう。
今日の空の異変は、外界の竜渡りらしいわ。
……なんだか嫌な予感がするけど」
呟きバタっと寝っ転がった。
「親には?」
「何も伝えてないわ。
孵化したばかりの小さな竜だったけど、自らの意思で気配を消すことが出来るみたい。
怖いけど、神レベルの存在力だし……。
明日で考えようかなって」
「……分かった。
朝、そっちに行く」
「了解。
わかる範囲、母さまから聞き出しておくわ」
「ああ。こっちでも適当に調べておく」
「じゃあ明日ね」
携帯を切り、腕をパタリと落とす。
また面倒なことになったのを、しみじみと思い知らされた感じだ。
「貴生のバカぁ」
呟かなければ、やってられない。
とりあえず明日、早起きしないとなぁ……。
暁君……。
いつの間にそんな異質な存在に?!
作者も知りませんでしたよ。
キミ、ちょっと面接に来なさい(笑)