表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/47

最終学年初日。




 最終学年直前で学費未納により退学の危機だった私、リディア・パウエル。

 本日無事に進級しました!


 寮の部屋を軽い足取りで出る私の胸元で踊る深紅のリボンタイ。

 このタイは学費を支援してくれたボブ・マーカス魔法史学科筆頭教授から贈られたもの。


「進級のお祝いだよ」

「あっ……でも」

「遠慮はいらない。親心と思ってくれれば」


 そう言ってほほ笑むマーカス教授は、私の気持ちをお見通しらしい。

 アリスト魔法学園に制服はなく、紺色のローブが指定着。ローブの下の服装は自由だけど、胸元に必ずタイを付けることになっている。

 タイは学年ごとに色が違い、一年生から白、黄色、緑、青、紫、赤。


 色味やデザインは好みだが、最終学年の赤は鮮やかで濃いものが良いとされる。

 この赤を纏って学び、卒業式では魔法でタイに学園の紋章が焼き付けられ、それが卒業証書となる。

 確かにこの学園を卒業した証として生涯の誇りになる赤いタイは他の色より思い入れが強くなるようだ。


 タイは毎年新学年に上がる際、家族から贈られるが、今年は領地から何の音沙汰もなかった。

 経営危機でそれどころじゃないのだろう。

 十日に一度は来ていた手紙もぷつりと途絶えている。


 タイは高級シルクでお値段もなかなか。今の私にはとても買えない。

 だからタイのないまま新学年を迎えると覚悟していたのに、マーカス教授はすべてわかっていてプレゼントしてくれた。


 そのタイを付けて廊下の姿見の前に立つ。頂いた時、お礼も途切れ途切れになるほど泣いた。今も鏡に映る自分は泣きそうだ。


「私はラッキーだなぁ」


 大好きな魔法の勉強を続けられる喜びをかみしめながら弾む足取りで教室に入れば、すでに登校していたクラスメイトたちが手を振ってくれる。


「おはよう、リディア」

「おはよう、マリー、キャロル」

「お互い無事に進級できてよかったわ」


 二人は新学期前の休みで実家に帰っていた。

 再会を喜び合い、それぞれの帰省話を聞いていたら教室に人が増えていく。

 ほどなく担任教師も入ってきて朝礼が始まった。


 最終学年のクラスメイトは二十九人。

 休み前は確か三十人になると聞いていたのに一人足りない。

 顔ぶれを確認してきょろきょろすれば、キャロルと目が合った。


「ねぇ、聞いた?」

「なぁに?」

「コーディが落第したそうよ」

「落第っ?」


 大声を上げそうになってとっさに手で口を覆う。

 目線で本当かと問えば、深いうなずきが返ってきた。


 ほどなく朝礼が終わり、始業式まで少しの時間がある。ざわつく教室で私たちは顔を寄せ合った。


「筆記も実技も及第点が取れなかったんですって」

「うそでしょ?」

「本当。たぶんリディアと試験勉強しなかったからよ」


 コーディと婚約していた時は二人で放課後によく勉強会を開いてテスト対策をしていた。


「……確かにコーディはあまり筆記が得意ではなかったけど、実技も?」

「お粗末な魔法しか出せなかったらしいわよ。枯渇ってわけじゃないみたいだけど」

「筆記は限りなく0点に近かったんですって」

「うわぁ」

「実家でも相当もめたけど、退学しないでもう一年勉強することにしたと聞いたわ」


 驚きで開いた口がふさがらない。

 私が何も言えずにいたら、マリーが不思議そうに首を傾げた。


「っていうか、キャロルはなぜそんなに詳しいの」

「地元では、この話を知らない人いないわよ」

「地元?」


 そういえばキャロルとコーディの領地は隣接している。


「休暇中にばったり街で会ったの。お互い新学年に向けての買い物中だったんだけど、コーディは赤いタイを買ってたわ。とっても自慢気に周囲の人間に見せびらかして祝辞をもらって」


 コーディは注目を浴びるのが苦にならないタイプだ。その様子が目に浮かぶ。


「リディアのこともあるし、私はあいさつ以外口をきかなかったの」


 しかしそこへコーディの家から早馬が来て、学園からの緊急重要通知を携えていた。

 揃えておく教科書などの学用品リストだろうとみんなの前で通知を広げたコーディは落第を知らせる内容に、その場でしばらく固まった。


「コーディは書類の間違いだって言い張ってたけど、周りの人は笑顔がこわばるし、声もかけづらいし。本人も従者に促されてそそくさと帰っていったわ」


 そして領地では落第の話があっという間に広まり、口さがない人たちを楽しませているらしい。


「アリスト魔法学園の生徒だっていうのは自慢できるけど、やっかみも多いじゃない? いい酒の肴よ」

「こわっ」


 私もそうなっていたのかもしれない。重ね重ね、マーカス教授には感謝しかない。


「よりいっそう勉強がんばらなくちゃ」


 私が握りこぶしに力を込めて言えば、二人も神妙に頷いた。


「そうよねぇ、身を入れてやらないと」

「実技、特訓しよう」

「付き合うわよ、リディア。私もコントロール能力上げたいし」

「マリーは繊細な魔法が上手いものね。私も教えて」


 キャロルも真剣な顔だ。私たちは何としても卒業することを誓いあった。









メッセージやポイントをくださった方々、本当にありがとうございました。

リクエストをいただいて、うれしくて……完結設定を外し、少しだけ続けます。

年度末で忙殺されているので、ゆっくり更新になるかと思いますが、二章完結までお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ