クラスメイト。
マーカス教授の研究室で働き始めて十日が経った頃、学期末テストが始まった。
これをクリアすれば最終学年になれる。
学費の心配はなくなったから後はテストへ向けて勉強するのみ。そう分かっていながら、つい溜息が零れる。
「どうしたのよ、リディア」
「明日からの実技が憂鬱」
クラスメイトのマリーに愚痴れば、さもありなんとうなずかれた。
「そうよねぇ、リディアってば筆記はそこそこなのに、なんで実技がダメなのかしら」
「魔力量だって、問題ないんでしょう?」
もう一人のクラスメイト、キャロルが不思議そうに首を傾げる。
「魔力があるのに魔法が発動しないなんてある?」
「ちゃんと教本通りにやってるんだけどなぁ」
二人に不思議そうにされて私はもう一度ため息をつく。
「まぁ、そんなに落ち込まないで。実技は努力あるのみよ」
「練習ならいくらでも付き合うからね」
「ありがと」
励まされ、気分が上向く。何としても皆と一緒に最終学年へ上がらなければ……と教室を見回せば生徒は少ない。
私の視線に気づいたキャロルがさみしそうに肩を落とした。
「私たちの学年もいよいよ三十人を切りそうね」
「入学したときには、百人いたのに」
「こんなに脱落者がいるなんてねぇ」
魔術学園は世界各国に一つずつあり、国内で魔力が一定以上ある人間のみ入学を許可される。
だが入学してきた生徒の過半数……大体七割が卒業できない。
内訳は、勉強に行き詰まるのが二割。
学費が払えなくなるのが一割。
残りの四割、最大の要因は魔力の枯渇だ。
人は皆微量の魔力を持って生まれるが、魔力量には個人差があり、使っていくうちに枯渇してしまう。
昔は枯渇してもまたそのうち復活したらしいが、最近は一生分の魔力を使い果たすと、以後一切増えない。
魔力の枯渇は予測できず、ある日いきなり魔法が使えなくなって分かる。
魔法を発動させるのが上手かった生徒たちも魔力が無くなっては何もできない。
こうして残っている私たちも明日は知れない。
ただ自分の魔力量が多いことを祈りながら、日々勉強しているのだ。
「ここまで来られたんだもん。きっと私たちは魔力増幅タイプだよ」
「そうだといいねぇ」
魔力増幅タイプとは、昔の人間のように体内で魔力を増やせる体質の持ち主のこと。
「そしたら卒業後も安泰だよね」
「うん、どの職を選んでもお給料いいし」
「結婚も有利な条件で進められるしね」
アリスト魔法学園卒業生は希望すればそのまま国家役人になれるし、それ以外でも魔力の多い者を求める人は多い。
「そういえば、リディア」
「ん?」
「聞いたわよ。この前ガルシア先輩と歩いていたそうじゃない」
「放課後デートするような関係だったの?」
「まさか! 実はね……」
二人に家の事情とコーディから婚約破棄されたこと、マーカス教授のところで働き始めたことを説明すれば驚かれた。
「マーカス教授の研究室ってだけでもすごいのに」
「ガルシア先輩と一緒の空間に?」
ガルシア家は伯爵位だが、古い家系で王家からの信頼も厚い。そんな血筋に加え、クリフォードの見た目と、抜きんでた魔力で在学中から一目置かれていた。
「うらやましいなぁ」
「でしょ? でもあんまり美形すぎて気おくれする」
「ぜいたくな言い分!」
「私のことはもういいじゃない。それよりテストをクリアしなくちゃ」
「そうだった」
「頑張って三人ちゃんと卒業できるようにしよう」
「うん!」
そう約束したし、落第したら援助してくれるマーカス教授に顔向けできない。
私は今回のテストをこれまで以上に必死でこなした。