決めつける人。
「ちょっと、あなた」
授業が終わりマーカス教授のお手伝いをしようと研究棟へ向かう途中、私は中庭でフランセットに呼び止められた。
「あなたに聞きたいことがあるの。私はフランセット・コラス。ティレットからの留学生で五年生よ」
そう一息で言い切って胸を反らしている。相変わらず強気な態度だけど、とりあえず名乗りを上げられたので応えよう。
「リディア・パウエル、六年です」
「あなたに興味はないから用件だけ言うわね。昨日一緒にいた男性たちの名前と連絡先を教えてほしいの」
「え? そんなのイヤよ」
昨日の様子を見て尚そんなことをしたら、二人に確実に嫌われる。
だから当然断ったが、フランセットは予想外とばかりに驚愕していた。
「なぜ……? あ、もしかしてまったく釣り合わないけど、あの二人のどちらかがあなたの恋人?」
「違うけど……」
「なら紹介してもあなたに不利益はないでしょう」
「不利益というより、友人としてお断りです」
「分かるわ」
こんな自己中心的な女性を誰かに紹介したら、私の評価も下がる。十分不利益があるだろう。
そう思って重ねて断ったのに、フランセットはうんうんと頷いている。
「友人に自分よりきれいで優秀な彼女ができたら、いい気持ちはしないわよね。あなたのような平凡な人間には特に」
斜め上の言葉に今度は私が驚愕した。
「でも私は気にしないわ。浮気は許さないけど、友人関係は許容するつもりだから」
「えぇと」
ものすごく失礼なことを立て続けに言われてどこから突っ込んでいいか分からない。
でもとりあえず、まともに相手をしたら面倒くさいことだけは分かる。
「諸々、お断りよ。失礼」
私はそれだけ言って、踵を返す。早くマーカス教授のお手伝いに行きたい。
「待って!」
研究棟へ向かう足を速めると、後ろから甲高い声で呼び止められた。
「友人なんて取り繕って……やっぱりあなたも彼らを狙っているのね」
「はい?」
「特に金髪の彼はかっこいいものね。あのレベルはなかなかいないわ。私みたいな美人が現れたら負けちゃうと焦るのも無理はない」
フランセットは真面目な顔でうんうんと頷き、けれど……と続けた。
「悪いけど、私も遠慮しないから。きっと彼も私の物になるために出会ったんだし」
そう言い放ち、自信満々に豊かな胸をそらすフランセットの笑みに憂いはない。自分の発言におかしなところはないと思っているようだ。
その態度に私は我慢できなくなった。
「あなたは勘違いしてる」
「何をかしら」
「この前マーカス教授に言われたことを忘れてない? 他者を見下す愚かさを諭されていたでしょう」
「なんで知ってるの」
「その場に私もいたもの」
「そうだったかしら。記憶にないわ」
あっさり言われた顔を見てると、ホントに私は眼中になかったようだ。その時のことを思い返して反省するかと思いきや、ハッと何かに気づいて私をしげしげ見る。
「そう言えば、マーカス教授の後ろにそんな髪色の女生徒がいたわね。ということはあなた、マーカス教授とも親しいの? なんであなたばっかり? たいして美人でもないのに」
「本当に無礼ね。私はあなたと話をしたくない」
そう言うとフランセットは口をつぐんで何事か思案しだした。
だから改めて歩き出したのに、もう一度呼び止められる。
「なるほど、分かったわ。学業でも一目置いてもらえばいいのよね」
「ん?」
「この前言ってた学内コンテスト? それで一位でも取ればあなたも負けを認めるでしょう。そうしたら彼から身を引いてちょうだい」
「お断り。そんな愚かな勝負になんか乗らないわよ。自分で言うようにあなたが本当に優秀だったら、彼らとのつながりは自然にできるはずなんだから」
「あら……じゃあそうは見えないけど、あなたは女を生かしてあの人たちに近づいたのね。抜け目ない人だこと」
そう侮辱された瞬間、私はフランセットに殴りかかりそうになった。でも寸でのところで理性のかけらが戻り、手を止める。
「何よ、図星で怒ったの?」
私はフランセットをありったけの軽蔑を込めてにらみつけた。
「馬鹿にしないで。私のことじゃないわ。あの人たちは見せかけに目がくらむような安い人間じゃない。こちらがちゃんとしていれば、真摯な態度で接してくれる公平な人格よ。あなたのような下品で、性根の醜い人間とは大違い」
「なっ」
「もう二度と話しかけないで」
私は早足の上、大股で中庭を立ち去る。
でもどうにも怒りが静まらず、小径横の雑木林に飛び込んだ。
そこは適度に生えている木々のおかげで人目につかないし、人も通らない。
「あぁ~、もう!」
なんて話の通じない人間なんだろう。そしてマーカス教授のように落ち着いて対処できない自分が情けない。
私は高ぶった心を深呼吸して、必死で落ち着けた。
自分に心鎮めの呪符を書いてみたりもしたが、最後に魔力を込めすぎて着火してしまい、呪符があっという間に灰になる。
感情が全然コントロールできない。
自分の未熟さに怒りより情けなさが勝ってきて、なんだか泣けてきた。
「なんなの、もう……」
マーカス教授とクリフォード、それにレオンなど優秀な人たちに比べ、自分が平凡なのは分かっている。
仲良くしてもらうことに気後れがないわけじゃない。だから少しでも成長しようと努力してきた。
それをフランセットは簡単に踏みにじってくる。
「くやしい」
手の中でまた呪符が灰になる。呪文を唱えなくても手のひらが熱くなり、火が勝手に灯ってしまう。
呪符の次はノートが燃えた。教科書にその火が燃え移りそうになって、慌てて水魔法で消火する。
教科書とノートの火は消えたが、私の手から飛び出した水は止まらず、地表面を水浸しにするほどの量になった。
「なにやってんだろ」
今度は濡らさぬよう教科書を抱きかかえ、足元の水たまりを見下ろす。
感情どころか、魔力のコントロールも相変わらず下手すぎる。
そんな自分が情けなくて、また涙がこぼれた。




