強引な相席。
「タッカー先輩、デートかな? 制服だけど」
「あいつにそんな女性がいるなんて聞いたことないな。そもそも勤務中に女性と腕を組むような性格じゃない。トラブルでもあったのか」
そう言われて目を凝らすと女性は鮮やかな金髪を揺らしながら、レオンの腕にしがみついているように見えた。
「あ、留学生だ」
「留学生?」
「そうです。最近隣国のティレットから学園に来た……確かフランセット・コラスさん」
あの派手な容姿は間違いない。でもなんでフランセットが、レオンと?
じっと見てたら、視線を感じたのかレオンと目が合う。
隣にクリフォードがいるのを見たレオンは珍しく助けを求めるように瞳を揺らした。
そんなレオンの視線を追って、フランセットがこちらを見る。そしてクリフォードを目にして、「まぁ!」とうれしそうに微笑んだ。
レオンの腕を放さないまま、彼女は躊躇なくカフェに入ってきて、クリフォードの前に立つ。
「はじめまして、フランセット・コラスと申します。ティレットから来たばかりで、まだ知り合いが少ないので仲良くしてください。お隣失礼します」
一息に言い、返事も待たず隣の椅子を引き寄せ、クリフォードの横に座った。
レオンの袖も握ったまま、やっぱり解放しない。
クリフォードもレオンも憮然としている。
「お名前お伺いしてもよろしいかしら?」
華やかだけど、どこかしっとりとした声で話すフランセットを一切見ずに、レオンは私とクリフォードに「やぁ」と言った。
クリフォードは無表情のまま、レオンをにらみ上げる。
厄介ごとを運んできたな、俺のせいじゃないと互いの目が語っていて、間に挟まれた私は居たたまれない。
フランセットは自分を疎ましく思う人間などいるはずがないとでも思っているのか、上機嫌に微笑んだままだ。
そんな空気に耐えられなくなって、私はレオンに話しかけた。
「こんにちは」
「デートの邪魔をしてすまない」
「い、いえ。いつもの読書会ですっ。ここのケーキは今日もおいしいです」
「それはよかった。伝えておく」
あえて固有名詞を入れない会話をしていたら、フランセットが「私もいただこうかしら」と店員を呼んだ。
「買い物中ずっと男性に誘われ続けて、疲れて喉が渇いてしまったの」
無反応のクリフォードに対し、フランセットは恋人同士のような甘え声で話しかける。
二人とも金髪碧眼で美形なので、童話に出てくる王子さまとお姫さまみたい。
とある画家に完璧な目鼻立ちと言われたクリフォード。最近は顔立ちがよりシャープになり男性的な色気が出てきたと学園でささやかれている。
噂ではクリフォードをめぐって社交界で壮絶なバトルに発展しているとか聞くけど、本人を目の前にすると真実味が増す。
それに並んでも見劣りしないフランセットってすごいな。
自分で言うだけあって隙の無い美人って感じ。
美しく見える角度を研究しているのかと思わせるしなを作って、クリフォードとレオンを上目遣いに見つめる。
「広場では特にたくさんの男性に囲まれてしまって……。お返事するのも大変で困っていたら、警備隊員さんに助けてもらったの。だからお礼にお茶をとお誘いしていたのよ」
そう言い、フランセットはやってきた店員に二人分のケーキセットを注文した。
「どうぞ座って。一緒にいただきましょう」
「遠慮する。君を助けたのは、勤務の一環だから礼はいらない」
一刀両断に言い切り、レオンは私を見る。
「また今度、遊びにきてくれ。家族が会いたがっている。それにあいつがケーキやらクッキーやらの試作品を食べてくれる人も探してるから」
「ありがとうございます、ぜひ」
「じゃあな、二人とも」
足早に去るレオンと入れ違いにケーキセットが届いた。
「まぁ……お忙しそうだからしょうがないわね。でも私一人で二人分は厳しいわ。よければ一緒に食べてくださいな」
無言のままのクリフォードへ椅子を近づけて、フランセットはケーキを食べ始めた。
「あら、おいしい……」
クリフォードより濃い青い瞳をまん丸にしてから、二口目、三口目とケーキを口に運ぶ。
思わず、といった態でつぶやいたフランセットの声に取り繕う色はなく、素のままなんだろう。どこか少女めいて、魅惑的だ。
それに毒気を抜かれて、私は肩の力が抜けた。
かわいいところもあるじゃないか。
所作はきれいだし、爪の先まできちんと手入れされている。
努力してるってのは本当のようだ。
感心しつつ、私は何も手入れしていない自分の手をそっとテーブルの下に隠した。