カフェテリアで。
サーグッド王国の王都にあるアリスト魔法学園。そこで魔法全般を学んでいる私、リディア・パウエルは午前の授業を終えて、クラスメイトと学内にあるカフェテリアに向かった。
同じテーブルについたキャロルとマリーは入学時からの付き合いで互いに気心が知れている。
「そういえば今日から留学生が来てるの、知ってる?」
「留学生?」
キャロルの問いに私とマリーは首を傾げた。
「知らなかった。ずいぶん半端な時期に入ってきたのね」
「リディアの言う通りだわ。新学期が始まってからもう一か月も経っているのに」
「手続きに不備があって遅れたって話だぜ」
会話に混ざりこんできたのはクラスメイトのフレッドとデレクだ。二人は新聞部に所属しているので、情報が早い。
フレッドたちはいつものように同じテーブルに着き、食事をしながら得てきた情報を教えてくれる。
隣国ティレットからの留学生は二人。名前はフランセット・コラスとモニク・アルノワ。
「フランセット・コラスは五年生。金髪碧眼、人目を惹く美人でスタイルもいいと聞いた」
「モニク・アルノワは四年生だ。黒髪に紫紺の瞳、容姿は大人しめだが、長身ですらりとしていて儚げな印象らしいぞ」
そう言うフレッドたちの顔はちょっとゆるんでいて、やっぱり男子は美人に弱いんだなと思う。
キャロルとマリーもそう感じたのか、面白くなさそうに、紅茶を口にした。
「でもなんで隣国から? ティレットにも魔法学園があるはずなのに」
マリーの疑問にキャロルは「それはね」とカップを置く。
「たぶん、あの国には魔力持ちが少ないからだと思う」
「少ない?」
「あの国はここ数十年で、急激に魔力持ちが減り続けている」
フレッドが口にした情報は私もお父さまからの手紙で知っていた。隣国ティレットでは生まれてきた子供の多くが魔力を持たない。
魔力を持つ者も成長とともに枯渇していき、魔力持ちの数は減る一方だとか。
そのため最近は、魔力がない前提で社会システムを作り、生活しているらしい。
お父さまは新しい時代に対応していると評価していたけど……魔力のない世界ってどんな感じなんだろう。
「そうなの、知らなかったわ」
「ティレットはこの話を隠そうとしているからね。マリーの領地までは話が届いていないんだわ。私とリディアはティレットに近いから知っていたけど」
「特にリディアのパウエル領はマクマスターにも近いよな」
「うちは西南大陸の国境沿いにあるからね」
私たちの住む世界は五大陸から成り、それぞれ北、南、東、西北大陸と私たちの住む地域の西南大陸に分かれている。
昔は四大陸だったが、百年前に終結した世界大戦の影響で西大陸が割れ、二つになったそうだ。
その西南大陸には私たちの国サーグッド王国とティレット王国、マクマスター王国がある。
サーグッド王国は西南大陸の三分の二を占め、残りをティレットとマクマスターが治める。
その三か国が接する地域には高い山脈があり、簡単に他領地との行き来は出来ないので、境界上でのいさかいは少ない。
国境付近は三か国共同出資の街道が通り、その一角に私の父さまが治めるパウエル領がある。
そのパウエル領から見て、国内側に元婚約者コーディーのゲイル領、そのさらに内側にキャロルの家が治めるスクリヴン領と並ぶ。
マリーは王都西側の領地なので、なかなか話が回っていかないが、私たち国境地域の人間は隣国、とりわけティレットの民から直接状況を聞く機会が多い。
それによると世界中で魔力持ちが減っている中でも、ティレットが一番深刻な状況だ。
「それなら、貴重な魔力持ちを国外に出すのは損失じゃないの?」
「そうよねぇ。留学してそのままその国に住み着く人も多いんだから」
フレッドはあっという間に平らげたランチプレートを名残惜しそうに見つめながら、その疑問に答える。
「おそらく彼女たちを教えられる師もいないんだろう」
「そうか、師がいなくては学べないものね」
「それなら我が国を頼るのも無理ないわ。確かティレットの国王は数年前変わったはず……」
「うん。三年前に前王が病気になって譲位したのよ。新王は国民に希望を持って迎え入れられていたと、お父さまからの手紙に書いてあったわ」
「あ、噂をすれば……あの二人だよ」
フレッドとデレクが目線で私たちを誘導した先に華やいだ笑い声をあげる金髪の女生徒がいた。
彼女は周囲に男子を数人侍らせてテーブルに着く。男子たちは甲斐甲斐しくランチを注文したりお茶を取りに行ったり忙しい。
「あの派手なのがフランセット・コラス。遅れて席に着いたのが、モニク・アルノワだね」
「周囲は見事に男子生徒だけね」
「気のせいかな、我らの元同級生もいるなぁ」
「あれは見なかったことにしようよ」
会話の中で存在を消去されたのは私の元婚約者コーディ・ゲイルだ。フランセットの真横に陣取り、相変わらずさわやかな笑顔で、何事か話しかけている。
他の男子もフランセットの気を引こうと話題を振り、互いに牽制しあっていた。
騒々しい場末の酒屋みたいな光景に他のテーブルからは生徒たちの冷たい視線が突き刺さっているのに、彼らはそれにまったく気づかない。
「出ようか」
「そうね」
私たちは騒がしさを嫌い、席を立つ。
「あいつ、相変わらず調子がいいなぁ」
フレッドがぽつりとこぼした呟きに私は深く頷いて、カフェテリアを出た。
お久しぶりです。
第4章が書きあがりましたので、連載再開します。
1話2000字前後で15話くらいになるかと思います。
またどうぞよろしくお願いいたします!
楽しんでいただけますように……。